第0830日目 〈詩編第128篇:〈いかに幸いなことか。〉&J.ラター《結婚の讃美歌》、R.ヘリック「時を惜しめと、乙女たちに告ぐ」〉 [詩編]

 詩編第128篇です。

 詩128:1-6〈いかに幸いなことか。〉
 題詞は「都に上る歌。」

 詩127からつながる詩編で、結婚を寿ぐ作物である。妻と子を得た男は主の目にかない、主の祝福に与ったのだ、と述べられる。信仰は異にするわたくしだが、この詩編には羨望と諦念の溜め息を吐かざるを得なかった。
 もっとも、わたくしの身に幸せが訪れたら、そのときは必然的に感想も豊かに、また、幸福が横溢したものとなるに違いない。そのときが訪れたなら(相手のアテはないが━━あなたなら良いのに!━━、きっと訪れる、と信じている)、この詩篇のノートも改めることとしよう。読者諸兄、あなた方とわたくしの約束だ。二言はない。
 国家の繁栄、その基盤を成すのはなんというても国民の数が増え、国共々代が続いてゆくことだが、斯様に良き女性に恵まれ、家庭を持ち、子宝に恵まれることを祝う詩に出喰わすと、わたくしの心は乱れに乱れ、暗澹となる。状況と心境ゆえに、ここは鑑賞よりも羨む気持ちの方が先に立つのだ。「あなたの手が労して得たものはすべて/あなたの食べ物となる」(詩128:2)、か……。
 が、家族/一族の繁栄こそエルサレムの、イスラエルの栄華につながるのだ。どうか、━━
 「シオンから/主があなたを祝福してくださるように。/命のある限りエルサレムの繁栄を見/多くの子や孫を見るように。」(詩128:5-6)



 上記に付け足して述べることがあります。
 イギリスの作曲家、ジョン・ラターという人が詩128を歌詞にすてきな合唱曲を書いていて、幸いなことにCDもある(NAXOS 8.557922)。タイトルを《結婚の讃美歌》といい、結婚式、或いは披露宴、もしくは親しい友どちを招いた新居を舞台に想定してか、伴奏楽器はひょいと持ち運んでこられるギターとフルートのみ。合唱もそれ程人数を必要とはしてないようで、数人の歌い手があればその場で歌えるような作品だ。おだやかな調べが全篇を満たし、とても素朴で温雅な雰囲気を醸している。輸入盤を扱っているちょっと大きなCDショップであれば置いてあると思うので、もしよかったら探して聴いてみてください(タワーレコードとかな)。結婚式のBGM、披露宴のBGMに趣向を凝らしたいと思っていらっしゃるカップルには、是非!
 なお、このCDには《シャドウズ》という歌曲集も収録されています。16-17世紀の英国詩人の作品に曲を付けた歌曲集ですが、文学の上でイギリスは<詩の国>と称されてきた程多くの才能豊かな有名・無名の詩人を排出してきた国ですので、それらをテキストに星の数程の歌曲が、これも有名・無名の作曲家によって書かれてきました。ラターもその例に外れる人ではありません。
 彼が書いたこの《シャドウズ》はギターを伴奏にバリトンが訥々と人生の淡い情景・心境を歌いあげた佳作ですが、第2曲目にわたくしの愛好してやまぬ詩が取り挙げられています。ロバート・ヘリックの「摘めるときにバラのつぼみを摘め Gather ye rosebuds」という詩で、これは過日わたくしの愛好してやまぬ映画として挙げた『いまを生きる』で印象的に使われていた詩であります。岩波文庫の『イギリス名詩選』にも選ばれている作品で、そちらには「時を惜しめと、乙女たちに告ぐ」という邦題で載っています(訳は平井正穂氏)。青春はいまだけだ、盛りを過ぎたらしぼむばかり、という内容で、文庫の註釈には「その主題は典型的な“Carpe Diem”〔今日という日を楽しめ〕というテーマのヴァリエーション」(P64)とありますが、まことその通りだと思います。宜しければ、ラターの音楽と一緒にこの詞華集も是非手に入れて読んでみてください。
 例えば今日の詩128を契機に、イギリス詩とイギリス歌曲に親しまれてみることをお奨めいたします。冬の夜長に静かに詩集をひもといて一編、二編、玩味しつつちょっと豊かな想いを堪能できる時間は格別です。そんな時間と余裕は、きっと人生に必要だと思います。また、そうすることの出来る人が、わたくしは大好きです。◆

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