第1513日目 〈「トビト記」前夜〉 [トビト記]

 サウルとダビデの統一王国はソロモンの死後、北と南に分裂しました。主の目に悪と映ることを行い、背き続けた北王国イスラエルはやがて東の覇権国家アッシリア帝国によって滅ぼされました。王都サマリアの住民は捕囚民となり、帝国領内の町々に住むことになります。
 今回読む「トビト記」はアッシリア捕囚期を背景とした物語、舞台は帝都ニネベとメディアのエクバタナです。
 ナフタリ族トビトは、ヨブの如く主を畏れる義の人であった。自身を「生涯を通じて真理と正義の道を歩み続け」(トビ1:3)、同様捕囚として連行された同胞のため「多くの慈善の業を行」(同)い、同族の者らが捕囚先の民と同じ食事をしているなか、自分は「心に固く決めて異教徒の食事はしなかった」(トビ1:11)と述べます。一種の信仰告白と申せましょう。そうしてかれは都の外に捨て置かれる同族の死体を埋葬して廻るのです。
 全14章から成る「トビト記」の粗筋を綴るとこうだ、――
 「トビト記」は信仰篤いトビトが或る日、ゆえあって失明したところから動き始める。息子トビアが父の昔の知り合いを訪ねて、メディアのエクバタナへ出掛けるのだ。同行者は一人、アザリアと名乗る者。かれの正体は当該日にお知らせしよう。
 向かう町エクバタナではサラという娘が悪霊に悩まされている。嫁入りするたび花婿が悪霊に殺されており、それが原因でよからぬ風評が生まれていたからだ。そこへトビアがやって来る。かれは従者の言葉添えもあってサラを悪霊から救い、父の失明に効く特効薬を手に入れた。サラを娶ったトビアは義父の留めるのを固持して、妻を連れて故郷へ帰り、父の失明を治す。
 トビトはやすらかに息を引き取る前、トビアに、ニネベを去ってサラの故郷へ移れ、といった。間もなく主の怒りによってニネベは滅び、アッシリアも滅亡するからだ、と。トビアはそうした。ニネベについてはトビトの言葉通りになった。トビアはエクバタナにて117歳の生涯を閉じる前にニネベの滅ぶのを見聞した。――以上、「トビト記」終わり。
 ジークフリート・ヘルマンは本書を指して、「一種の教訓の叙述である。数々の驚くべき出来事が話を豊富にしている。それは歴史的事実を伝えるのではなく、むしろ歴史的なものを背景として宗教的体験を述べる」(『聖書ガイドブック』P185教文館)ものだという。
 また、『旧約聖書外典偽典概説』(教文館)の著者、土岐健治によれば、「トビト記」は幾つかのユダヤ教以外の物語を素材として採用している云々(P75)。1つに<感謝せる死者の物語>、2つに<アヒカル物語>、3つに<コンスの書>。それぞれについては該当しそうな日を選んで述べてゆくつもりであります。
 執筆年代や場所、著者は不明。推定前2世紀頃にヘブライ語かアラム語で、敬虔なるユダヤ人によって執筆されたか。しかし、タイムマシンを持たぬ現代のわれらに正確な年代を述べることは不可能であります。
 とはいえ、本書は心洗われる小さな美しい書物。神の前に正しくあり続ける家族を扱った物語としては、旧約聖書の「ルツ記」を想起していただくのがいちばん良いかもしれません。
 それでは明日から一日一章ずつ、「トビト記」を読んでゆきましょう。旧約聖書続編はこの書物から始まります。◆

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