第1573日目 〈エステル記(ギリシア語)第4章:〈モルデカイ、エステルを説得する〉with永野護『ファイブスター物語』連載再開に寄せた、一年後の心情告白。〉 [エステル記(ギリシア語)]

 エステル記(ギリシア語)第4章です。

 エス・ギ4:1−17〈モルデカイ、エステルを説得する〉
 モルデカイは公示された勅書を読んで、嘆いた。衣服を裂いて粗布を纏い、頭から灰をかぶって、かれは嗟嘆した。罪なき民族が抹殺されてしまうのだ!
 ⎯⎯モルデカイは王宮の門まで来て、エステルが遣わした彼女の世話係にして宦官のアクラタイに勅書の写しを渡した。どうか王にこのことを伝え、われら民族のために寛大な処置を取ってくれるよう頼んでほしい。どうか主に祈り求め、われら民族を定められた滅びから救ってほしい。
 これを伝え聞いてエステルは難色を示した。国中の誰もが知っていることですが、いかなる者であろうと王の召しがない限り会うことはできません。殺されてしまいます。もっとも、召しがない者であっても王が金の笏を差し伸べてくれたなら、死を免れることができます。しかしわたしはもう30日も王から召されていないのです……。
 モルデカイはアクラタイを通して、再度エステルの説得にかかった。「他のすべてのユダヤ人を差し置いて、国内で自分だけが無事でいようなどと考えてはならない。あなたがこのような時にあたって、耳を貸さないなら、ユダヤ人の助けと守りは他の所から来るであろう。そして、あなたとあなたの父の家は滅ぼされるだろう。あなたが王妃になったのは、この時のためではなかったのか。」(エス・ギ4:13-14)
 これを伝え聞いてエステルは遂に折れた。彼女はアクラタイを通してモルデカイに言伝た。では、スサに住むすべてのユダヤ人を集め、わたしのために3日3晩断食してください。わたしも女官たちとともに断食します。そのあとでわたしは死を覚悟で法を破って王の前に参ります。
 モルデカイは帝都に住むユダヤ人全員を集め、3日3晩、エステルのため断食を敢行した。

 王妃選定のため後宮へ入る際、モルデカイはエステルに、くれぐれも自分の出自を明かさぬよう言い含めていました(エス・ギ2:10)。しかし本章にてかれは、エステルがユダヤ人であり、今回の勅書にて根絶やしの対象になっている民族の出である、と彼女の世話係にいってしまっています。エステルも断食にあたって、自分も女官たちとそれを行うつもりである旨いうております。このときはもう、エステルがユダヤ人であることは、少なくとも彼女の周囲では周知の事実であったのでしょうか。第7章でエステルが出自を告白したときの王とハマンの態度から推察するに、広く知られた事実ではなかったようであります。彼女が信頼して周りのことを任せられる幾人かだけが、その事実を知っていたのかもしれません。
 ところで。エステルって本当に王妃なのでしょうか。30日も放ったらかされているなんて、ねえ……。それだけ多くの側室が後宮にはいたのか。あるいは王の精力・性欲の都合? そういえば、アルタクセルクセス王の妃って、ヘロドトスの著作に拠れば、アメストリスという女性がいる。綴りからアメストリス(Amestris)とエステル(Esther)は同一人物なのではないか、と考える説もある由。王の「アルタ」も接頭語だといいますからねぇ。同一人物というのも頭ごなしに否定できるものではありません。
 それにしても、エステルの台詞を読んだとき、勿体ないなぁ、と王に対して憤慨する一方で、どういうわけかファーストレディ、ラキシスの名台詞を思い出して吹き出しました(一応アマテラスってデルタベルンの<大統領>ですからね)。「まったくもう、いつになったらわたしのことをキズモノにしてくださるのでしょうか、この人は!」と宣うたのだ、このファンキーな姫君は!! 正確な文言や前後の状況については原典に当たられることを祈る(永野護『ファイブスター物語』リブート第6巻P431 角川書店)。……ラキシス姫とエステル妃よ、君らに幸あれ!



 昨年春からほぼ9年振りに連載再開した『ファイブスター物語』。デザイン一新、名称変更の大混乱とシュプレヒコールは一段落した様子ですが、それはむしろ作者の姿勢に匙を投げた人々の流出が一段落した、ということでもありましょうか。わたくしの周囲にもファン活動を停止した人が何人かいます。活動を停止したサークル主催者もいます。
 個人的には名称変更は許容できるけれど、デザインの大幅な変更にはもはや付いてゆくことができません。重装甲になったとしても元のMHのラインまでが変わるわけではない。サイレンは常にサイレンであり、シュペルターはどこまで行ってもシュペルターなのだ。が、連載再開以後にコマのなかで見るMH、もといGTMの骸骨ボディから最強兵器としての脅威を感じられることは終ぞなく、況や兵器としての格好良さをや。
 エピソードの途中で長期連載中断、再開と同時にファンから総スカンを喰らった作品として歴史に名を留めるであろう『ファイブスター物語』。連載していない間も原作コミックが売れ続け、作品を支持する一定数の固定ファンがあるならば、作品の根幹を揺るがす変更を行うことも許される、というクリエイター側には反面教師、読者側には明確な裏切り行為・切り捨て行為に等しい事態を引き起こした本作は、間違いなく<伝説>の領域へ足を踏み入れて追随するものなき唯一無二の作品として語り継がれてゆくことでしょう。

 上掲のエッセイは一般向けの話題ではないかもしれません。そういう意味では読者を選ぶ内容になってしまい、作品を知らない方には申し訳なく思うております。
 が、この作品は連載開始の頃からさんさんかが読んできて、深く影響を与えられたものでもありますため、連載再開時の衝撃は上に書いた程冷静ではありませんでした。
 昨年から機を見て書き、お披露目するつもりでおりましたので、今回このように文章にすることができたのは素直に嬉しい。◆

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