第1612日目 〈「マカバイ記 一」前夜〉【修正版】 [マカバイ記・一]

 旧約聖書はイスラエル国家の歴史を綴った書物でもありました。かつてイスラエルは唯一無二の国家であった。アッシリアとバビロニアという強国に翻弄されてその軍門に降ったこともあった。そうして旧約聖書の終わりではペルシアの属州となってその庇護下にある。そんな状況下でエルサレムと神殿は再建された。
 旧約と新約の間には、約400年の隔たりがあります。空白期といえばそれまでですが、その間も勿論イスラエルは存続した。しかしもはやペルシアの影はその上になく、代わってその地方に覇権を築き、イスラエルを実効支配しているのはマケドニア帝国でありました。
 マケドニア帝国。アレクサンドロス大王によってその版図、その繁栄、その栄華を極めた、紀元前に於いては最大最強の国家として、様々な書物に名を残しております。が、大王の急逝後、国は大いに乱れて後継者を自認する者たちが割拠してディアドコイ戦争が起こる。結果、マケドニア帝国はアンティオコス朝マケドニア、プトレマイオス朝エジプト、セレコウス朝シリアに分裂して鼎立の時代を迎えたのでありました。旧約と新約の空白期をつなぐ書物、「マカバイ記 一」はこうした時代を背景としております。
 「マカバイ記 一」はシリア地方を統治するセレコウス朝の下、ヘレニズム化してゆくエルサレムとユダヤ人社会を憂い、一部の愛国者が団結・蜂起したことで勃発したマカバイ戦争について物語る。このとき、セレコウス朝シリアの王はアンティオコス4世。プトレマイオス朝エジプトを圧してエルサレムを擁すユダヤを完全なる支配下に置き、エジプト征服をも視野に収め得たものの、マカバイ戦争の対処に専念するため、それは諦めた。
 このアンティオコス4世、即ちアンティオコス・エピファネスについて「マカバイ記一」は多くを語りますが、特に1:10にて「悪の元凶」と断言されているのが目を引きます。理由は続く各章からも明らかになりますが、その最たるものは神殿を汚し、破壊し、ユダヤ教を圧迫、すべてのユダヤ人に背教を促した点でありましょうか。アンティオコス4世はこれを契機に、徹底した民族的アイデンティティの壊滅を実行しようとしたのでした。
 では、そもマカバイとはなにか? 別に「ハスモン」とも呼ばれるマカバイは、この戦争に於いて指導者的役割を担った一族でありました。
 マカバイ家の者は、「シメオンの子であるヨハネの子で、ヨヤリブの子孫の祭司であったマタティア」(一マカ2:1)に始まり、かれの5人の息子の内、マカバイと呼ばれるユダを中心に兄弟シモンとヨナタン、時代が下ってはシモンの子ヨハンネス(ヨハンネス・ヒルカノス1世)に至る。ちなみに「ハスモン」はマタティアの先祖の名、マカバイ家がハスモン家とも呼ばれる理由はこれであります。
 なお、セレコウス朝シリアのみならずディアドコイ戦争を経て鼎立した3朝はいずれもローマ帝国に滅ぼされました。まだ<帝国>への発展途上にあるとはいえ、マカバイ戦争の時代にもローマ人の武勇は知られるところであったようであります。第8章にそれは記されており、為にユダはローマと接触し、同盟を結ぶに至ったのでありました(一マカ8:23-29)。
 人名・地名、固有名詞が久しぶりに乱舞しますが、話はとてもストレートに、ひたすら前へ進み、かつ躍動的。歴史書を読む興奮もじゅうぶんに味わえます。既にわれらは「ダニエル書」でこの時代、この出来事の到来を、<幻>という形ながら知らされていました(第8章)。あれから約1年が経つ。「マカバイ記 一」読書の前に、ダニエルがどのような幻を目にしていたのか、さっと振り返っておくのもよいかもしれません。本ブログに於いてそれは、第1280日目にある。
 それでは明日から1日1章の原則で、「マカバイ記 一」を読んでゆきましょう。◆

共通テーマ:日記・雑感

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。