第1844日目 〈共観福音書について〉 [新約聖書・付言]

 ──やはり共観福音書については400字詰め原稿用紙約2,3枚の分量になったとしても、「マタイによる福音書」に入る前に短いものを書いておいた方がよい、と思うのであります。
 新約聖書に収められる福音書のうち、始めの3つ、即ち「マタイ」、「マルコ」、「ルカ」を<共観福音書>と呼びます。これらを斯く呼ぶのは、この3つの福音書には共通する挿話や表現が多く見られる点に、理由を求められます。
 もう一つの福音書である「ヨハネ」には、たとい同様の挿話があったとしても切り口や視点を変えていたりするなどの独自性がある。たとえば、冒頭に於いてイエスを明確にキリスト即ちメシアである、としている点などです。他の福音書と「ヨハネ」を分けるこの独自性という点については、後日〈「ヨハネによる福音書」前夜〉にて話題としましょう。
 さて、「マタイ」、「マルコ」、「ルカ」には多く共通部分のあることはわかった。が、流石にそれだけでは共観福音書とは言い難い。
 3つの福音書が斯く呼ばれるのは、その事実を基にして或る作業が行われたためでした。その作業というのが、18世紀ドイツのヨハン・グリーンバッハによって、「マタイ」、「マルコ」、「ルカ」に共通する挿話や表現を、横一列の見開き対照表にしたシノプシス(共観)の作成だったのです。これが3福音書を総して<共観福音書>と称すようになった謂われであります。このシノプシスは日本語訳も出ており、ちょっと大きな図書館などに行けば所蔵されているのではないでしょうか。
 新共同訳聖書には各章の小見出し横にこの共通部分が注記されていますので、読書中に気になった挿話などあればその都度、他の該当箇所を参照することができます。
 もう一つ、共観福音書については各福音書の成立時期も併せて述べる必要があるかもしれません。近世までは個々の福音書は、現在新約聖書に収められる順番に執筆、成立した、とされてきました。しかし近世以後は研究も進んだお陰で、まず「マルコ」がいちばん最初に成立し、それを基にして「マタイ」、「ルカ」がそれぞれ書かれた、というのが定説になっております。
 但し、「マタイ」と「ルカ」の間にどのような関係性があるのかは不明です。「マルコ」を基にして「マタイ」、「ルカ」のいずれかが成立して、更にそのあと残りのどちらかが成立したのか。或いは、「マルコ」を基にして「マタイ」と「ルカ」が別々に成立したのであって、元から「マタイ」と「ルカ」の間に相互関連的な関係性はなかったのか。──実際のところがどうであったのか、タイムマシンでその時代に戻らぬ限り、現時点では結論はとうてい出せぬ問題でありましょう。古代から伝わる書物には必ず付きまとう編纂過程の問題は、これら福音書に於いても避けられぬことなのでありました。
 また、成立過程はどうあれ、「マタイ」も「ルカ」も「マルコ」のみを参考、典拠としたのかどうか、甚だ疑問でありまして、いまや殆どが「マルコ」以外の資料も参考にして「マタイ」と「ルカ」が執筆、成立したてふ意見を採る。その「マルコ」以外の資料を指して特に<Q資料>といい、新約聖書外典として扱われる「ペトロの福音書」や、同じ外典であってイエスの語録集、世に言う<ナグ・ハマディ文書>の一つである「トマスの福音書」、その他の新釈聖書の成立に関与する資料のことであります。──いつか機会を得たらこのナグ・ハマディ文書や、新約聖書の成立に影響を及ぼしたグノーシス主義についてのエッセイを書いてお披露目したいものだ、と思うておるところであります。
 これらの資料については概説書や学術書などでも扱われることの多い事項なので、もっと詳しく知りたい、深く勉強したい、という方は、是非それらについて書かれた本をいろいろ読んでみてください。
 ──以上、<共観福音書>について述べてきました。それでは明日からいよいよ「マタイによる福音書」を読んでゆきましょう。◆

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