第1940日目2/2 〈「ルカによる福音書」前夜〉 [ルカによる福音書]

 <共観福音書>の名称が示すとおり、「ルカによる福音書」を読んでいると、「マタイによる福音書」や「マルコによる福音書」で既に読んだことのある挿話、喩え話と再会すること多々であります。シモン・ペトロの弟子入りと姑の病気を癒やす話のように先の2つの福音書と順番が逆になっていたり、ナザレでのイエス拒絶のような描写がより詳しくなっている、或いは逆にヘロデによる洗礼者ヨハネ処刑の如く簡素化されているなど、様相は個々に異なると雖も、ああこの話は前に読んだことがあるな、と思い、無意識に「マタイによる福音書」、「マルコによる福音書」の並行箇所と比較してしまうのです。
 しかし、なによりも「ルカによる福音書」について思うのは、<共観福音書>のうちでいちばん構成がしっかりしている点でありました。これは畢竟、最も物語としての結構が整っていることを意味し、イエスの公生涯を最も彩り豊かに伝えている点にも結びつきましょう。そうして本福音書は唯一、洗礼者ヨハネの誕生が語られ、イエスの幼少時代を語られる書物であります。12歳のときのエルサレム巡礼は「ルカ」のみが記録するものでした。
 この福音書の優れたる文学性については諸家が述べるところでありますが、それは著者に擬せられるルカが医者という知識階層に属す者であったことに由来する見方であるかもしれません。
 ではこのルカとは何者か。かれを「医者」と報告するのは「コロサイの信徒への手紙」第4章第14節であります。またかれは、マニ教からの改宗者にして初期キリスト教最大の伝道者、後に読む書簡の多くを書いたパウロの宣教旅行に随伴した人。一方で初期キリスト教の宣教活動を記した「使徒言行録」の著者でありました。なお、ルカは「ローマの信徒への手紙」第16章第21節にある「同胞のルキオ」と同一人物とされる由。
 ルカの生涯はパウロのそれと密に関係するがためか、パウロ書簡にはルカの名前が散見されます。それらの記述を綜合させるとルカは、パウロの最初のローマ投獄のときには既に随伴者として侍っており、晩年に至るまで身辺を世話してパウロを助けました。
 以上のようなことを述べてきたとはいえ、ルカが「ルカによる福音書」と「使徒言行録」の著者である、と研究の末に断定せられたわけではありません。わたくしにはわかりませんが、「ルカによる福音書」はなかなか練られたギリシア語で書かれているそうであります。教養ある階層の人物によって書かれた、という点では変わりありませんが、すくなくともそれはローマ帝国領内の都市部に住む、ギリシア語に堪能なキリスト者でなくてはならないでしょう。加えてルカ1:1-4にあるようにローマの高官としか推測できぬ人物に親近して著者が献呈する程の立場と地位になることも、著者を特定するための条件としなくてはならないでしょう。
 「使徒言行録」については後日改めて述べますが、「ルカによる福音書」の執筆場所として挙げられるのは、シリアのアンティオキアとガリラヤ地方北部の(フィリポ・)カイサリアの2箇所であります。一節によれば、ローマで書かれた、ともいいます。アンティオキア説の根拠となるのは、ルカがアンティオキア教会の会員であり、殊「使徒言行録」第13章第1節でアンティオキア教会に属する預言者や教師の名を挙げている点などに由来する。カイサリアとローマに関しては、それぞれパウロが2年の間投獄されていた地であり、その間にルカは福音書と記録の執筆を行ったのであろう、といわれます。
 実際の執筆場所がアンティオキアなのか、カイサリアなのか、或いはローマなのか。それに明確な正解を出すことは不可能ですが、パウロの足跡やルカへの言及、ルカが読者対象とした知識層に属する異邦人の存在などを考えた場合、執筆地が上記のようなローマ帝国領内にある発展した都市部である、と考えることに無理はないようであります。
 執筆年代については、本福音書の記述が第一次ユダヤ戦争によってエルサレムが陥落した70年から、81年から96年までローマ皇帝の地位に在ったドミティアヌス帝によるキリスト教迫害までの、最大約25年とする考えがあります。一方で、執筆地をカイサリアとするならば58-60年の間に、ローマとするならば60-63年の間に書かれた、とされます。W.クライバーは単純に80年頃とします(『聖書ガイドブック』P235 教文館)。──福音書の執筆年代を特定するのはいつでも困難で、不可能事に近いのですが、それでも「ルカによる福音書」程の開きはなかったように記憶します。そうした点では最も厄介な書物と申せましょう。
 ──「マルコによる福音書」のときにはわたくし自身の健康上の理由から2週間近くも中断してしまいましたが、今後はそのようなことがないよう留意しながら本ブログの更新をしてゆきたく思います。
 それでは明日から1日1章の原則で、「ルカによる福音書」を読み進めてゆきましょう。◆(71)

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