第2613日目 〈イーデン・フィルボッツ『赤毛のレドメイン家』を読んでいます。〉 [日々の思い・独り言]

 ここ1.5ヶ月ほど昨年末からゆるゆる続けてきた横溝正史読書マラソンを中断し、<この際だから海外ミステリの古典を──買い溜めしている分だけでも──読んじゃおうプロジェクト>パート1に取り組んでいる。
 そうして8月15日、終戦記念日のあたりからは都合3冊目となるイーデン・フィルボッツ『赤毛のレドメイン家』(宇野利泰・訳 創元推理文庫)を読み始め、作業はいまも鋭意進行中だ。間もなく1週間になろうとしているけれど、今日でようやく半分ぐらいを消化。満を持して名探偵登場の第11章がいまである。
 じつは名探偵登場までのつなぎ役でしかないと判明するに至った前半パートでの捜査担当、ふしぎにも「探偵」と訳語のあてられているロンドン警視庁のマーク・ブレンドン警部は、読者からすれば愚鈍の人である。とんだヘマをしでかしてそれに気がついていない/気がつこうとしていない、優秀な警官であると説明されても、なんだかなぁ……とその能力に疑心暗鬼な思いを抱かざるを得ない人。自分の思いこみを後生大事にするのはいいが、それを絶対的なものとして捜査の第一歩から誤った方向へ突き進んでゆくのは、危険である。被害者側からすれば、トンデモ警官でしかない。
 おーい、そっちじゃないよ、君の行くべき道は。目の前の人物が自分に見せる媚態や言葉を、あまり真に受けちゃあ駄目だよ。そんな風に忠告したい場面は、多々ある。
 でも、警官としての能力はさておき(=あまり評価していない)、被害者遺族なかでも未亡人となった女性に寄せるブレンドン警部の気持ちは、頷けるところが多いのです。恋愛と職務を天秤にかけたり、相手の心変わりが必ずしも本心からではないと自分を納得させようと努めるあたりね。一歩を踏み出すべきところで踏み出す勇気のないスコットランド・ヤードのミスター・マーク・ブレンドンが、そんなときたまらなく自分に似ていて好きになっちまうのですよ。なんだかこの恋(……?)の顛末もそっくりで──いやいや、それはともかく。もっともおいらの場合、その感情は<恋>ではなく<蔑み>/<憎しみ>/<恨み>でしたが、まぁそれはどうでもいい。思い出すたび心の荒れ狂う過去あっての、幸福で満ち足りた現在なのだから。
 おそらくミステリに於いて「恋は盲目」の実例を1人挙げよ、なんて設問があったら即座に名前の挙がる筆頭候補でありましょう。そのくせこの人、終盤になるとそれをちょっぴり否定してみせたり、あげくに苦い経験を味わってイギリスへ帰郷するのですから……盲目がもたらした癒えぬ悔恨ここに極まれり、という感が致します。
 ──この感想の第一稿を綴っている8月後半、『赤毛のレドメイン家』はいよいよ舞台をイギリス・ダートムア(バスカヴィル家!)からイタリア・コモ湖へ移し、名探偵ピーター・ガンズ氏が読者の前に姿を現そうという章へさしかかった。物語はようやっといちばん大きな転換点を迎える。そうして清書しているいま9月半ば、再び物語は大きな転換点を通過してガンズ氏がイギリス帰郷の車中にて謎解きをしてみせている。
 もはや疑いもなく来週中に読み終われること必至だ。為、はじめの予定通りに読了の感想は9月終わりか10月初めにはお披露目できそうである。ちょっと安堵。第一稿では〆の言葉、「どうか読者諸兄よ、期待しないで……否、期待していてほしい……かな。うん」という不安を抱かせる終わり方であったが、明るいニュースをお届けできてとってもうれしい。さて、では途中途中で記していたメモを動員して、そろそろ読了の感想を認める準備を始めようか……。その前になんだかお腹減ったな。◆

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