第2629日目 〈グレン・グールド・プレイズ・フレデリック・ショパン〉 [聖書読書ノートブログ、再開への道]

 ちかごろはショパンのピアノ・ソナタ、就中第3番を聴く機会が多いのですが、ついでとばかりに自分の架蔵する音盤を検めたら、意外とこのポーランドの作曲家のCDが手薄なのに気附いた。
 おそらくはイディル・ビレットがNAXOSに録音した全集で満足できてしまっていたからでしょう。この全集には当時の自分の思い出がこびり付いていることも手伝って、ずっと座右にあってただの一度もその地位を陥落したことがない、稀有の音盤となっております。
 たしかずっと以前にこのあたりのことはエッセイに書いた覚えがあるので、今日はどうしてショパンのピアノ・ソナタを聴くに至ったのか、ちょっとその辺を短くも書いてみようと思います。
 すべてはシャンパンならぬグレン・グールドのせいなのです。
 じつは今夏に至るまで、グールドにショパンの録音があることを知らなかった。バッハとブラームス、シェーンベルクとヒンデミット、リヒャルト・シュトラウスぐらいでしたからね、購っては聴き、そうして処分することなく残り、CD棚の隅っこでいまも再び聴かれる機会を待っているのは。それにかれの著作や彼について書かれた本でも、グールドのショパン嫌いは触れられている。たしかにグールドとショパンの相性は悪そうだな、自分から探し求めて聴く機会を得ようとは思わないだろうな、というのが当時から抱いていた正直な気持ち。
 にもかかわらず、わたくしがちかごろショパンのピアノ・ソナタを専ら聴いているのは、これすべてグールド氏のせいなのである。
 なんとTSUTAYA某店にてそのアルバムを発見したのだ。もういちど、いいますね。TSUTAYAでグールド弾くショパンのアルバムを見附けたんです。そう、あのTSUTAYAです。これまでどのTSUTAYAでも見たことがなかったグレン・グールド・プレイズ・フレデリック・ショパンが、いやぁまさか……。
 もっとも、このTSUTAYA、他に較べてやたらジャズの在庫が充実しており、クラシックもどうしたわけかベートーヴェンの交響曲全集が3種類あって(全集だけでも事件なのに、それが3種類も!)、今夏以来週一で通い詰めています。まぁ、借りるのは殆どジャズなんですけれどね。あとはときどきボカロとアニメ、洋楽を。
 さて、こんな風に書いているのだから、お前はきっとグールドのショパンをもう借りたんだろう、ですって? 借りてiTunesに取りこんで、折に触れて聴いているんだろう、とな? 滅相もないですぜ、旦那(だれだ?)。気持ちはいつだって動いた。借りちゃおうかな、借りちゃえ! 殊最後の1枚がなかなか決まらないときは、安全パイの選択肢として手を伸ばしてカウンターまで運びかけたことも、実際に数回あった。が、結局わたくしはたいして悩みもせずにそれを手放し、他のCDを選んでセルフ・レジに足を向けたのだ。
 なぜか? きっとそのうちに自分の架蔵品として欲しくなるに相違ない、なる予感があったからだ。実際のところ、TSUTAYAを始めとするレンタル店であれ図書館であれ、これまで借りたCDの何枚かについては後日自分用に買い求めたことがあったのである。先日のヘンデル《メサイア》然り、ペーター・マークと都響のドヴォルザーク然り、ハービー・ハンコックの《ヘッド・ハンターズ》然り、ジェリー・マリガンのアルバム各種然り……。
 そうして時は流れて今日(昨日ですか)12月30日。庭の掃除と神棚の浄めを済ませ、お焚きあげのお札等を神社へ持ってゆき、松飾りを飾ったあと、夕方に差し掛かった時分だったが個人的なお出掛けをした途中で寄った某新古書店にて、数日前に見附けて買うを悩んでいたグールド弾くショパン:ピアノ・ソナタ第3番のCDを購入したのである。ついでにコルトーとルービンシュタイン、ポリーニのロ短調ソナタのCDも買ってきた(ルービンシュタインはアファナシエフのブラームス2枚と一緒に音盤連盟にて)。
 本稿を書きながらのBGMは、勿論あまり世評の芳しくないこのグールドのショパン。これを聴く前の耳均しに例のビレットとコルトー、ルービンシュタインを選び、いよいよ……。
 このときの感想は後日に譲るとしてグールドのショパン、偽りなくいえばさしたる異形のショパン、おぞましいショパンではなかった。グールドの個性が煌めくショパンであるのは間違いないが、これはこれでじゅうぶん「アリ」な演奏ではないのか……?
 名盤と呼ぶには異端かもしれない。言葉を連ねていえば──或るとき妙に聴きたくなって仕方がなくなる……記憶の底で眠っていたのがなにかの拍子に突然うごめき始め、すぐに欲求が満たされないと途端、落ち着きをなくしていても立ってもいられなくなる、そんな中毒症状を来す類の演奏だ。──モーツァルトやベートーヴェンも(わたくしにとっては)そうですが、今回の経験を踏まえるとショパンはそれ以上に中毒性の高い演奏だったのであります。
 こうなると、グールドにショパンの録音が他にないのが残念でなりません。ソナタ第2番《埋葬》やポロネーズあたりは「ぴったり」とはいわないまでも、化学反応を起こして面白い演奏になったと思うのだけれどなぁ。◆

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