第2666日目 〈新潮文庫からラヴクラフト傑作集(南條竹則・編訳)が出ましたね。〉 [日々の思い・独り言]

 ふらり、と立ち寄った仕事帰りの新刊書店の平台にて、ああ今日だったか、と感慨深い溜め息を内心吐きながら、その1冊を手に取りました。H.P.ラヴクラフト『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』(南條竹則・編訳 新潮文庫)であります。
 収録作は「異次元の色彩」と「ダンウィッチの怪」、「クトゥルーの呼び声」、「ニャラルラトホテプ」、「闇にささやくもの」、「暗闇の出没者」、そうして「インスマスの影」、計7作。文句の付けようがない、これぞ、傑作集の名に恥じぬラインナップといえましょう。
 これまで光文社古典新訳文庫にてオブライエンやブラックウッド、マッケンらの傑作を新訳で送り出してきた南條竹則が、どうして突然新潮文庫からHPLの作品集を出すに至ったのか、寡聞にしてわたくしは存じませんが、これだけの大手からラヴクラフト作品が<傑作集>という形で出版されてたくさんの人たちの目に触れるようになったのは、喜ばしいことです。
 これまではラヴクラフトを読もうとすると、どうしても創元推理文庫に頼らざるを得なかった。が、どこの書店でも扱いのある文庫ではない、というのがネックでした。このたび新潮文庫から新訳が、しかも信用できる実力者によって出版されたことは、まさしく<令和の慶事>としか言い様がありません。
 今回の新訳が同文庫のロングセラー、『江戸川乱歩傑作集』と同じように未知の読者への好き入門書であり続けてくれることを祈ります。クトゥルー神話のゲームやアイテムを使ったライトノベルなどを契機にラヴクラフトの小説へ関心を持った人たちには、この新潮文庫版が入り口役を担うことになるのですから(というわけで、新潮文庫はゆめこの文庫を品切れ・絶版の憂き目に遭わせるべからず。役割と同様、責任も大きい)。
 そうしてその魅力に気附いた人たちが、『インスマスの影』に付された編訳者の解説やネット書店の情報などを頼りにして、貴重な資料や図版、合作小説をも網羅した創元推理文庫版全集(宇野利泰・大西尹明・大瀧啓裕訳)や評論やエッセイ、詩、書簡、添削した小説や同業者の回想録等まで網羅して未だその価値と資料性を失うことない国書刊行会版全集(矢野浩三郎他訳)、現在ゆっくりしたペースで進行中ながらリーダビリティでは先の2つの全集を上回る星海社版傑作集(森瀬繚訳)に向かってくれるならば、とても嬉しいです。わたくしもこの機会に改めて、ラヴクラフトの小説に遊んでみようと思っております。
 さて、次のラヴクラフティアンの夢見るところは、岩波文庫にラヴクラフトとクトゥルー神話の眷属が一角を占めて、この文庫のイメージをがらり、と変えてしまうことですね(呵々)。ここまで来てようやくラヴクラフトが世界文学の仲間入りをし、評価の定まった古典として新たな位置を占めるのではないか、とわたくしは考えるのであります。◆

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