第2735日目 〈有栖川有栖他『犯人当てアンソロジー 気分は名探偵』を読みました。〉 [日々の思い・独り言]

 ここ数日、ずっと部屋の掃除兼書架の整理を夜中までしているせいか、ちょっと体の調子を崩してしまった。ときどき強烈な眠気も襲ってくる。情けなや。そこで今日は、忙中閑の企みとばかりに残すか売るか、判断つきかねるミステリを読む日とする(眠いのに? 野暮なこというな)。チト後ろめたいけれど、ああ、至高の時間……。
 なんの気なく手にしたのは、『気分は名探偵』(徳間文庫)。有栖川有栖、貫井徳郎、摩耶雄嵩など6名のミステリ作家による犯人当て小説アンソロジーであります。これは『夕刊フジ』に連載(!)された諸作を一巻にまとめたもの。適当に読み流そう、と思うて軽い気持ちで手にしたのが、いやぁ、午後の時間をたっぷり使って、巻末の「謎の著者座談会」まで愉しく読みましたよ。
 改まって感想を認めるつもりはないのだが、どれもこれもなかなか手がこんでいて、難しかった。手掛かりはすぐそこにあるのに見破れない、隔靴掻痒の感を味わったことであります。問題編を読み返して解決編に臨んでも、犯人を当てられたのはじつに霧舎巧の「十五分間の出来事」だけでした。これとて作中に登場するあの雑誌が部屋にあり、それがふと視界へ入らなければ犯人を指摘することも、証言の穴を見附けることもできなかったはず。うん、<それ>では顔を隠しきれないね。
 運によって正解を導き出せた霧舎を除けば、他はいずれもわたくしには難物揃いだった。特に貫井敏郎の「蝶番の問題」。これは集中、最強の難物です。新聞紙上で連載されていたときの正解率は1%!! 格安貸別荘に泊まった男女が次々に殺されてゆき、そのうちの1人が手記に詳細を綴っていた。が、手記は途中で終わっており、では犯人は誰であったか、それを推理してみせよ、というのである。
 注意深く、疑い深く、検証しつつ読み進めれば、或る不自然さが浮き彫りになり、消去法で犯人は導き出せるのだが(まぁ、それが犯人当て小説のセオリーですが)、その「或る不自然さ」に辿り着くまでが難行で、かりに気附てもそこから真相へ辿り着くことは難しい。
 この企画では犯人を当てられた人には賞金が贈られるのだが、貫井の作品に関しては正解できたのは1人だけで、しかも名前だけであったらしい。他の作家陣も頭を悩ませたのは読者と同じらしく、うち1人に至っては「途中で一瞬なんかおかしいなと思ったんだけど、その先がわからなかった。絞りこみが一段階じゃないでしょう」という始末。同業者もシャッポを脱ぐのであれば、読者の側としては「仕方ないか」と諦めもつくというもの。
 いやぁ、それにしても、この作品はすごい。打ちのめされたよ。
 麻耶雄嵩「二つの凶器」と我孫子武丸「漂流者」も良かった。前者は犯人当てというのを忘れて没頭して、いつの間にやら解決編も中葉を過ぎていた。後者は「犯人は誰か」ではなく「私は誰でしょう?」になっているのが面白い。ミステリを読み慣れた人ならば、じっくり腰を据えて読む人ならば、容易く真相へ至ることもできようが、わたくしは、ホレ、ミステリと名のつく作物には綺麗に騙されたり、作者の術中に嵌まることを快感とする者だから、正解率が高い作品にだって、コロリ、とやられてしまうのだ。以てミステリの模範的読者を自認する所以である。
 さて。今日は現代のミステリ作家による犯人当て小説を読んだ。明日は、「乱歩からの挑戦状!」と帯に謳った『江戸川乱歩の推理教室』(ミステリー文学資料館編 光文社文庫)に手を伸ばすつもり。え、部屋の片附け? ……も、勿論やるさ。◆

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