第2743日目 〈台風19号が通過するのを待ちながら、『江戸川乱歩の推理教室』を読みました。〉 [日々の思い・独り言]

 現在22時13分。台風19号(ハギビス)は19時すこし前に伊豆半島へ上陸、つい先程までは町田市付近を通過中とあった。横浜市は予報通り、20時30分頃から21時までを雨風のピークとして、いまは雨風も収まりつつある。むろん、まだ予断は許さないけれど──。
 さいわいと家がある地域は高台で、河川が氾濫しても(そういえば最近、「氾濫」という単語が常連となりつつある。伊藤整の小説の影響か)被害が出ることはまずないのだが、知己の住まう他区や他市にはレベル4の避難勧告が出ている。いまもYahoo!やウェザーニュース、NHKの台風情報ページを見ているけれど、警報が容易に解除されるわけは当然なく、どれだけ風雨が収まりかけていて、台風が北関東・東北へ移動しているとはいえ、今夜中は避難所で大人しくしていていただきたい。そう知る人、知らぬ人にお伝えしたい。北海道から運悪しく(?)こちらへ遊びに来てホテルに足止めを喰らっている知人もあるが、どうか早合点と勇み足はおやめいただきたい。
 ──読書に励もうとしても台風情報が気になって気になって、とうてい集中して読めるものではなかった。気休めの材料にはなっても、完全に気をそらすには役不足なんだな、と改めて実感。とはいえ『江戸川乱歩の推理教室』(ミステリー文学資料館編 光文社文庫)を読んでいると、これまで名前も知らなかった作家がずらり収録されており、新保博久の解説にある簡単な作家紹介と併せながら1作1作を読み進めていった。
 そのうち、飛鳥高「飯場の殺人」は単なる犯人当ての域に留まらず、捻りの利いたオチに奇妙な感動すら覚えた、今日まで読んだなかではピカイチの作品というてよい。トリックそのものは、明かされてみれば単純なのだが(まぁ、そういうものなのかもしれないが)、この人の手掛かりの文中への埋めこみ方には、ちょっと唸らされてしまった。巧みである。
 仁木悦子「月夜の時計」はトリックも犯人も見破れた数少ない作品だが、むろん、誰が読んでもわかるという代物ではない。たぶん、似た傾向の作品があったのを読んで、たまたまそれを覚えていたに過ぎぬのだ。ほんの些細な記述が解決に結びつく、という根本的な事柄を否応なく思い知らされたのが宮原龍雄「消えた井原老人」。要するに、きちんと読め、読み急ぐな、書かれたことをとっくり検分して隅々にまで目を凝らせ、ということである。千代有三「語らぬ沼」はスキー客の集団内で殺人事件が発生するのだが、雪山での事件という点に留意して読めば、犯人と殺害方法は自ずと明らかになるはず。
 そうして、「そこがキモであったか!?」と自分の見落としに呆れ返ったのが、鮎川哲也「不可能犯罪」であった。「達也が嗤う」と「薔薇荘殺人事件」を読んでいるとはいえ、そこは本格の名手、鮎川の出題作品である。解決してしまえばこれ程わかりやすい手掛かりもないにもかかわらず、読んでいる最中はどうしてか見落としてしまう……如何に手掛かりを文脈に紛れこませるか、読者の目を眩ませるか。飛鳥高の作品と並んで、本書収録作品のうち特に犯人当て小説のお手本と呼んでよい一編といえるだろう。
 本書には「頭の体操」と「諸君は名探偵になれますか?」というそれぞれ3つの、乱歩からのトレーニング問題が載る。また、また、木々高太郎出題の「宝石商殺人事件」に、乱歩と水谷隼が対談形式で真相に迫る愉しい作品も載っている。
 本書の元版が昭和34年とあって風俗や社会事象、文章に古めかしさは感じられるけれど、作品の質は折り紙付きで、けっして時代遅れの代物ではない。現代作家の犯人当てがなんでもありの様相を呈しているだけに、このシンプルかつストレート、けれどちょっと一筋縄では行かない作品群に頭を悩ませ、正解を導き出して一種の「アハ体験」をしてみるのも宜しかろう。
 明日もしくは明後日から続編『江戸川乱歩の推理試験』の読書へ移る。秋の夜長は始まったばかりだ。ミステリを読み耽るにこれ程喜ばしい季節が他にあろうか?◆

追記
 現在23時59分。台風19号は水戸市の西を約30キロのスピードで北東へ進んでいる由。北関東以北の土砂災害警戒情報と各種警報がいきなり増えたことが、それを実感させる。大きな人的災害や河川の決壊などが出ぬことを祈りたい。
 とりあえず、首都圏は史上最大級最強クラスの台風をやり過ごすことができた。みな元気だ。家もアパートも、支障はない。ご心配くださった方々、ありがとう。サンキー・サイ。□

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