第2893日目 〈汝、幻想文学へ還れ、とダンセイニ卿はいふ?〉1/2 [日々の思い・独り言]

 それはまだまだ脆く、ともすれば実りの時を迎えられるかもわからぬものだけれど、めでたき哉、幻想文学への情熱が自分のなかへよみがえってきたような気がして、実に意外と驚きながらも喜びを隠せないでいます。
 ここ10年の間、読み耽ってきたのは小説と投資の本、小説を細かく検めればいったん中途で止した太宰とドストエフスキーの他は漱石に鏡花に花袋、荷風あたりを短期集中、気紛れ半分で摘まみ読みした以外は専ら現代の作家に目が向いて、なかでも読み耽って飽きることのなかったのが綾辻行人『十角館の殺人』で開眼したに等しい国産ミステリの世界でした……京大ミス研出身者を中心とした新本格を漁る一方で時代を遡って乱歩に横溝、鮎川哲也に連城三紀彦、清張といった具合に、未だに気が付くと手を伸ばして耽読、時間の経つのも気附かずにいる始末です。
 そんな風にもかかわらず、いま自分のなかで三たび幻想文学への熱が湧きあがってきたのは、どうしてなのか。そのような時期に差しかかったのだ、としか申しあげることができないのは無責任なようですが、どうやら人間の細胞は一定周期で入れ替わるというのは、信じてよいお話のように思います。
 倩顧みて、どんなことがきっかけになったのかな、と考えてみると、どうやらTwitterと書肆盛林堂の存在が無視できぬ役割を果たしているようです。たしかTwitterでは、むかしコミケで買ったダンセイニ卿の研究誌と作品集を写真に撮って呟き付きでツイートしたところ、それの編集や翻訳を担当された方からリプライをいただき、そこからイモヅル式に幻想文学及び隣接するジャンルのツイートを目にすることが多くなったと覚えています。
 もう1つの、書肆盛林堂。これは西荻窪にある盛林堂書店が出版業を行う際の屋号である。専用の通販サイトを持つ。わたくしがこの書肆を利用するようになったのはつい最近のことで、まだ日の浅い新参者だ。
 TwitterのTLに流れてくる幻想文学関連のツイートを眺めていた或る日、昨年ここからダンセイニの未収録短編集の翻訳(『ロマンス』)が出ていたことを知ってびっくり仰天、書肆の通販サイトに飛んだけれど既に売り切れ・再入荷予定なし、とのことだった。諦めきれずサイトを逍遙していたら、咨なんということでしょう! そこはわたくし好みの本が幾つも売られている蠱惑の世界だったのです。要するに油断すると財布の中身が翼生やして飛んでゆくこと必至な、個人的には危険度最大級のサイトなのでした。
 初めてそのサイトを覗いたときは、幸いなるかな悲しむべきかな、持ち合わせがあまりなく、あっても購書に優先する使い途があったのでどうにか注文ボタンをクリックしなくて済んだが、いちど斯様な幻夢境のあることを知ってしまうと、買わないまでも殆ど毎晩サイトに出掛けては溜め息吐いたり、様々目論んだりして月日の過ぎるのをぼんやり待ったのでした。
 そうして──事態は好転した。たとい向こう数ヶ月の間だけであったとしても。
 まぁ詳しいことはさておき、すこしは本を買う資金に余裕ができたとき最初に脳裏へ浮かんだのは、これで書肆盛林堂で本を買うことができるぞ、ということでした。それは、ちょっと大げさかもしれませんが、夢の実現を意味しました。通販は避ける、と決めていました。事実上初めての買い物は直接お店に出向いてしたかったのです。求める本が店頭になければ、そのときはそのときです。斯くしてわたくしは電車を乗り継いで西荻窪に降り立ち、商店街を迂回して目的地へ足取り軽く向かったのでした。6月、2度目のお休みの日であります。
 ……やはりここで、その日に購うた本のタイトルを列記するべきなのでしょうか……そうですよね、ここまで書いたのならそうすべきだというお言葉はよくわかります、ならばその後私的に素直に従いましょう……曝しましょう。買い求めた本は3冊、ダンセイニの『芸術論』と『戦争の物語』、クラーク・アシュトン・スミスの『黒い本』です。
 前の方で、むかしコミケで買ったダンセイニの作品集がある旨触れました。それが『戦争の物語』の前身(元版)となった同題の同人誌でした。更に今年になってそれを改訳、増補したものが書肆盛林堂から出版された『戦争の物語』である由。
 その日、帰りの電車のなかでダンセイニ作品集2冊をぱらぱら、拾い読みして至福の時間を堪能したのは、敢えて申しあげる必要もないでしょう。ダンセイニについては、だいぶ先になるだろうけれど感想を書くと同時にわたくしなりのダンセイニ論(「論」と呼べる代物になるか、たいそう不安です)を物して、しれっ、と、拙くも情熱だけはあるような感想文を書いてここにお披露目したく思うております。(to be continued.)□

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