第2904日目 〈旧約聖書続編「トビト記」再読。──目標、1回1,200字以内!〉2/3 [トビト記]

 メディアの王都エクバタナに住まうサラは、既に7人の男に嫁いだ女性でしたが、相手は例外なく初夜の晩に変死して果てた。というのも悪魔アスモダイの手にかかったためでした。アスモダイはゾロアスター教の、色欲を司る悪魔であったようです。なにゆえ此奴がサラの夫を死に至らしめたか、動機は本人に訊かねばわからぬところながら、まぁ彼女には悪魔さえたぶらかす色香があったのかもしれません。
 ちなみにゾロアスター教はキリスト教の形成に影響を与えた、イランを発祥地とする世界最古の宗教でしたが、イスラム教の浸透に歩を合わせるようにして衰退してゆきました。
 それはさておき、このサラが、トビアの妻になります。トビアがメディアにやって来たのは、父が旧知にあずけた銀を受け取ってくるよう依頼されたことに由来する。人間に化けて同じナフタリ族のアザリアと名を騙る天使ラファエルの導きでかれは、道の途中にあるエクバタナにてサラと出逢い、結婚することに。ラファエルの策士ぶりが際立って語られ、恋のキューピッド役に励む天使の人間臭さに心中喝采を送りたくなる場面であります。
 で、問題の初夜の変事ですが、ラファエルの知恵でトビトは助かり、エジプト目指して逃げ出したアスモダイはラファエルに追っ掛けられて囚われる(この一文の背景には前述の初期キリスト教がゾロアスター教の教義を取りこんでゆく過程が窺えます。アスモダイを捕らえたというのは、初期キリスト教会によるゾロアスター教吸収の成果のプロパガンダに読み取れます。穿った物言いでしょうか)。
 翌る朝、人々はトビトの死を疑わず(7件もの前例がある以上、仕方のない話です)かれの墓を掘ったあと、新婚夫婦の寝所を除いて仰天する羽目に──死んだと思うている人物が、新妻とぐっすり一つ床で眠っていたのですから。確認してからお墓造れよ、とか、だからというて寝所を覗きに行くなよ、とか、2人が朝から励んでいたらどうするんだよ、とか突っこみドコロは多々ありますが、夫婦が健やかであればそれでよろし。いずれにせよ、一つに結び合わされた夫婦はその縁、絆を分かたれることはなかったのでした。
 前回、「トビアの結婚と親の面倒を見る一連の場面に心惹かれ」る旨最後に書きましたが、それはこういうことであります。
 ──このあとトビアとサラの婚姻の祝宴が、14日簡にわたって催されます(主催者:サラの父ラグエル)。いちどは娘を送り出すと決めたものの日が経つにつれて淋しさが募ってきたのでしょう、あろうことかラグエルはトビアにメディアに留まり一緒に生活するよう懇願します。むろん、トビアはそれを退けて故郷へ帰還するのですが、ここに相手の親との接し方、折り合いの付け方の難しさが窺えませんでしょうか。
 日本人夫婦の場合はたいがい、妻が夫の両親と同居し、その老後の面倒を見ることになるようであります。自分の両親、周囲の夫婦を観察していると、その割合は圧倒的に高い。そんな次第でいえばこの「トビト記」、現代日本の夫婦が直面する<親との同居>問題について一石を投じ得る書物といえるでしょう。□

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