第2529日目 〈マンガについての文章を書くこと。〉 [日々の思い・独り言]

 どうにかしてこの状況から逃れたかった。まわりを見ても、前を見ても、どこもかしこも闇、闇、闇。光なんてものが自分の未来に射しかかることはないのでないか。おまけに足許は不安定で、いつ地面が崩落してぽっかり空いた穴へ落ちこんでしまうかわからぬのが現実で。息苦しくて居心地の悪い、自分を取り巻くハリボテのような世界をぶっ壊したい。そんな思いを抱えていた矢先に、信州の地方都市が主催する懸賞エッセイのあることを知った。蜘蛛の糸。これにすがれば、ただ一ツ事と定めて専心すれば、すくなくとも真っ暗で圧し潰されるような世界を壊す足掛かりになるのではないか。そんな気持ちで年が明けて間もない日から、投稿するためのエッセイの執筆に取り掛かった。
 斯くしてわたくしは、半世紀近く前に家族と訪れたその街にある城址公園からの眺め、殊にその展望台から見える川の流れを終始心に思い浮かべながら、そこを舞台にした、小中学生の頃に読み耽った学園マンガを俎上に上したエッセイを書いた。
 エッセイは〆切前日にひとまずの完成を見、ぎりぎりに郵便局から発送できた。それから何日と経たぬ時分である、その後の虚脱感と充実感が綯い交ぜになった気分でいるとき、ふと、もしかしたら自分にもマンガについての文章が書けるのではあるまいか、と考えついたのは。以前から同様な希望は持っていたが、小説や映画について書くのとはまた勝手が著しく異なるようで一方的に気後れを感じてしまっていたのだから、件の懸賞エッセイの存在を知らなければ可能性の欠片もなかったであろう可能性である。そうしてそのとき題材に選んだものが自分が握玩してやまぬマンガであったから、〆切切りぎりぎりまで粘って執筆と推敲に明け暮れることができた──その果てにしかけっして存在し得ぬ可能性なのだ。
 それではマンガを書いたことのない者がマンガについて文章を書こうとする場合、いったいどんな点に主軸を置けばいいだろう。技術に関して費やすべき言葉も能力もない者がマンガを語るにはどのようなアプローチが考えられるか。いや、真剣に悩みましたよ。でも、答えは目と鼻の先に転がっていて、見附けられるのを待っていた。それはつい数日前まで懸賞エッセイを書くにあたって自分で実践していたことだったのだ。それが実在の場所を舞台にする限り、景観と歴史、そうして文学を絡めてならばマンガについての文章が自分にも書けるではないか!? 量産は至難の業だけれど、取り挙げられる作品は限られてくるだろうけれど、突破口は開けた。
 小説や映画についての文章を物すのとは別次元の手段が必要だと思いこんでいたときには考えつきもしなかった解決策である。双方にはなんの隔たりもなかったのだ。大事なのは、<それが好きだ>という揺らぐことなき気持ち。先達て新しいシリーズとしてマンガについてのエッセイを始めますよ、というたあとでこのような思索と解明の文章を綴るのもわれながら不思議な話だが、まぁ読者諸兄には「マンガについての文章を書くこと。」前編・後編と捉えていただければ幸甚、幸甚。
 さて、それでは端緒を摑むことも兼ねてこんどの週末は、鎌倉を舞台にした『ラヴァーズ・キッス』と『海街diary』を読み返してみよう。◆

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