第2531日目 〈こんな夢を見た(その8);灰白の壁で覆われた楕円形の建物にて。〉 [日々の思い・独り言]

 昨日は突発的な休みとなって申し訳なかった。仕事のあとに元同僚と久しぶりに会い、酒食に耽りつつ存分に語り明かしたのである。そうして日附けが変わるすこし前に帰宅、もうなにをする気にもなれぬまま床に就いた……。
 実は一昨日、昨日、今日(昨日ですか)と3日続けて、かつての事業所の仲間たちが登場する夢を見た。偶然なのか、なんらかの力が働いてのことであったか、考えてみても答えは出ない。しかしそこで見た夢はかれらと一緒にいたときの記憶に基づいたものでは全然なく、かれらを登場人物の1人と見做した仮想現実に於ける出来事だったことを注記しておく。目覚めたあと、いまの職場の誰彼の姿や言動と較べてしまい、たまらず嗚咽がこぼれてしまったことであるよ。ナンデボクハコンナ遠くニ来テシマッタンダロウ? それはさておき、夢のお話。
 一昨日の朝の夢、こんな内容だった──出演者は事業所立ちあげ時から共にいた管理者たちプラス自分。新しい事業所拠点の設営のため、灰白の建物のなかにいる。まわりがどのような景色なのか、石灰岩によく似た色の靄が窓の向こうを埋め尽くしているものだから、知る術がない。
 われらは建物の何階かにいて、幅10メートル程は優にある回廊を挟んだ2つの部屋に別れて作業している。わたくしは天井が高く、畳で数えれば200畳の更に倍はありそうな広さの南に面した部屋にいて、床から天井まで、壁の端から端まで曲線を描く外壁に沿うようにして嵌めこまれた、厚さはガラスブロック並みにあるにもかかわらず外の景色が歪んで見えることのない、極めて高純度のガラス窓に背中をくっつけて、突っ立っていた。手には長さ1.5メートルぐらいの余って使い途のなくなったLANケーブルが1本、ケーブルの色はブルー。実際にわたくしが在籍している会社が利用するオフィス家具の通販会社で取り扱われているLANケーブルだ。
 われらが初めてここへ来たとき(それは前日のことと推察される)、オフィス家具や機器類はすべて搬入されて、事前に知らせてあったレイアウトで配置されていた。向かい合わせに配置された5人掛けオフィス・デスク×2プラスお誕生日席に管理者席が1台配置されて構成する1つの島が全部で10島、加えてネットワーク・プリンターや書架、両開き扉のキャビネットと引き出し3段のキャビネット、ホワイト・ボード、セキュリティ・ボックス、そうしてデスクトップ・パソコンと電話機が全スタッフ分。必要なものは不足なく搬入されているようだ。あとは実際の業務がここで始まったあと、不足なもの、あったら便利なものが見えてくるだろう。
 この部屋に入って電話機とパソコンを目にしたときのことは夢から覚めたあともはっきり覚えている。電話機;使いづらいことこの上ない筐体が角形なそれであることに消沈、パソコンを見てやっぱりここへ移って来てもWindowsなのか相変わらずケーブルがごちゃごちゃしていて美しくないなぁと軽く罵倒。
 描写に重きを置いたが、出演者の行動は広い舞台にそぐわず大きくない。いつの間にか窓から離れて、現実では仕事のあとでときどき一緒に酒を飲んだりする仲の管理者(男)と、パソコンのセッティングを一通り済ませて手持ち無沙汰でいたときである。壁の向こうでセキュリティ・カードをかざして施錠が解除された音が聞こえたあと、ドアが勢いよく開いた。頬を紅潮させたうら若き、九州出身の女性管理者が興奮した様子で飛びこんでくる。その勢いに気押されて立ち尽くし、目が点になったわれらを見て、彼女はいった。向こうの部屋凄いよ! と。
 なにがどう凄いのか、説明を求めても彼女の話はまったく要領を得ない。そのうち、とにかく来ればわかるから、と説明そのものが放棄された。なおも行くのを逡巡する男たち、それに業を煮やした彼女。もう! 両頬を膨らませるやわたくしの手を取ると(摑むと? 握ると?)、部屋から引きずり出したのである。もう1人の、男性管理者に対しても同様にして。両手に花ならぬ、両手に……なんだろ? とにかく彼女はわれらを部屋から引っ張り出して回廊を大股に歩いてゆく。その人を秘かに思慕したこともあるわたくしはその状況にどぎまぎし、かつ嬉しかったのだが、一方でなにかが変だ、と最前ふと心の片隅に生まれて激しく存在を主張する疑念を無視できずにいた。
 回廊の中心には一段の幅が5メートル以上ある階段──踏み面も腰高の手摺りもすべて大理石のような光沢を放っている。昇降の際は滑ったりしないように気を付けなければならない──があった。ここが途中階であることはその階段を見ればすぐわかる。上の階にも下の階にも階段は途中で踊り場を経て曲がり、伸びていた。が、踊り場に差しかかるすこし手前から階段は薄暗くなっており、踊り場を曲がったあとはまったくの暗がりに閉ざされている。果たしてこの建物がどれだけ高く、どれだけ巨大で、いったい何階建てなのか、その階段の暗がりを見た途端にそれらについて考える力は麻痺させられてしまった。
 回廊を通って階段の前に来たとき、下へ向かう階段の闇のなかから自分を呼ぶ声を聞いたような気がした。わたくしは立ち止まった。件の女性管理者の手が離れたが、彼女はそれにはお構いなしで残った1人の手を引いてそのまま歩幅を変えることなく、回廊の反対側にある、ドアの開かれたままの部屋へ向かってゆく。わたくしは不安に駆られて2人に呼び掛けたが、こちらの声が届いていないのか、歩をゆるめることも止まることも、こちらを見ることもしなかった。彼女が扉の向こうにいると思しき者の名を呼び、連れてきたよ! といった。その声は回廊中に響き渡った。特に音や声が響くような構造になっているとは思えないのに……。刹那の後、2人の姿はドアの向こうに消えた。ドアは重々しい音を立てて閉まった。
 わたくしは下へ降りてゆく階段の方へ足を向けた。もはや周囲はまったき闇である。黒に黒を重ねてなお黒い、そう滅多にお目にかかることも経験することもできない闇のなかに、わたくしは独りぽつねんとしている。小声で、誰かいるの、と訊ねるも、返ってくる声はなかった。が、やがて──胸にあたたかいものが触れた。比喩ではなく、物質が触れたのである。それは死者のぬくもりであった。そうして耳許で囁きかける甘やかな声。逃げなさい。生きていれば毎日その声を聞き、そのぬくもりに触れられたはずだった人が、姿を見ることは叶わねどここにいる。夢のなかとはいえこの得体の知れぬ建築物に迷いこんだわたくしを導くために冥界から還ってきてくれたのか……?
 場面転換。
 わたくしは外にいて、岩場にもたれかかって灰白の壁で覆われた楕円形の建物を見あげている。どうやらわたくしがいるのは、岩山の中腹あたりであるようだ。建物の基部は岩場の向こう、小規模な落石を何度も起こしている落ち窪んだ底にあって、しかもそこは相当深いところにあるのだ。反対に建物の頂は空の雲を突き破ってなお伸びて、どうやら星の広がる真空の海へまで達している様子。
 基部も頂も見ること能わざるその建物を、岩場にもたれてうつろな目で眺めている。わたくしがいる場所と同じ高さの壁にぽっかりと開いた矩形の出入り口から、回廊の反対側に抵抗する力も奪われて連れてゆかれた男性管理者が無事に、異形の物と化すことなく心身共に異常ないまま姿を現すのを待っている。空には巨大な恒星と天の川銀河が見える。フェード・アウト。
 ──わたくしはすべてを語り終えた。次の日に見た夢は語られることがない悲しい艶夢であった。玉の緒よ耐えねば耐えね……。◆

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