第2690日目 〈「小川国夫の本が読みたいぜっ!」旋風、すさまじく吹き荒れし夏!!〉 [日々の思い・独り言]

 小川国夫の著作──単行本をぽつりぽつり集め始めたのはいつ頃からか、覚えていない。が、きっかけなら覚えている。車谷長吉『文士の魂・文士の生魑魅』(新潮文庫)に小川国夫『或る聖書』の紹介があり、興味を惹かれてのことだ。
 読みたしと思えどすぐに出向ける範囲内の古本屋、新刊書店、いずこにもその著書はなかった。仕方なく図書館で借りるも、その帰り道、現代文学全集の端本を古本屋の棚に見附けて買いこみ、そのまま図書館へと回れ右をした……。
 端本とは、新潮社が1979年から87年にかけて刊行していた《新潮現代文学》全80巻の1冊。小川国夫へ割り当てられたのは、1985年9月発行の第65巻である(第52回配本)。
 ──話は横道に逸れるが(いつものことですネ)高校の帰り、ほぼ日参していた駅ビル内の書店には、この全集がだいたい40冊ぐらい、いつも並んでいた(※)。高校2年生の秋に第69巻、倉橋由美子の作品を集めた1冊をなぜだかドギマギしながらレジへ運んだのは、良い思い出です。顧みるにこの全集、読書の幅を広げるに功あり、わが現代文学の趣味を形成した、或る意味で罪作りな全集でありましたな。ああ、甘酸っぱくて刺激的な読書の日々だったなぁ……。
 さて、小川国夫だが経歴についてもこれまでの著作についても無知であったわたくしに、《新潮現代文学》の1巻は、この作家が如何なる軌跡を経ていまに至るか、これまでどのような著作を発表してきたか、次になにを読むべきか、を水先案内する役目を果たすのだが、──
 小川国夫という作家が気になったのはもう1つ、簡単な著者来歴にて静岡県藤枝市出身で、いまもそこに住まうている、と知ったからだ。なぜなら、わたくしも静岡県民であった時期があり、定年退職して再雇用期間が終わったら子供時代を過ごした伊豆半島の付け根の街に帰りなんいざ、と思うていたがゆえの、なにかしら共通点を見出したような喜びに、その感情は基づく。
 もう一つ、親近する<鍵>があったとすれば、小川国夫がキリスト者であったこと、か。聖書に材を取った作品のあるを知って、或いは聖書自体を語った単行本があると知り、捜し歩き回りましたね。後者は資料を借りに通っていた市の中央図書館の、キリスト教の棚にあったものだから、これまででいちばん手に取り読む回数多かった本、ということになる。
 小説については恥ずかしながら、特定の作品ばかりを繰り返す読むばかりで、それ以上の進展は見られぬまま、歳月は降り積もってゆき。しかも繰り返し読む、というのは愛読ばかりでなく、よくわからなかったから何度も読んでいた、なる側面もある。が、あのゴツゴツとして簡素な、乾いた文章は、まさしく聖書の世界に通じるものがあることは、ほかの指摘を待つまでもなかった。
 そうして今日に至るのだが、『悲しみの港』を小学館P+D BOOKSの上下巻で読み、すっかり小川文学のトリコに、今度こそほんとうになった。岡松和夫や南木佳士と同じように鍾愛握玩する作家になった、瞬間である。
 本作は著者の半自伝的作品という。東京から故郷の藤枝市に帰郷してきた小説家の、文学者たらんとする克己と婚約者ある女性との仄かな恋情を描いた、ロマンティックな長編小説。新聞連載という出自のためか非常に読みやすく、何度も何度も読み返してその都度、羨望と憧憬の溜め息を洩らしたことである。
 ときどき、わたくしのなかで「小川国夫の本を読みたいぜっ!!」旋風が吹き荒れる。先日、秋葉原のスターバックスで早朝、「申命記」前夜を書き、その足で病院に寄った帰り、神保町の古書街を久しぶりにブイブイいわせていたら(ん、この表現は数日前に使った覚えがあるな……えへ)、現代文学者の単行本が破格の値段で売られている現場に遭遇した。さして期待せず平台を眺めて回っていたら、小川国夫の著作が幾つも目についた。もう脳味噌は沸騰し、いまを逃せばこのような機会に恵まれること非じ、財布の紐を堅くせねばてふ誓いも空しく、5冊をサルヴェージ。重い荷物によたよたふらつきながら、故郷の港町へ帰還したことでありますよ。
 幸いというべきか、現在のわたくしは療養のため会社を辞めて、読書と家事と散歩の日々である。買い溜めた本がたくさんあってどれから切り崩すか、思案しているのだが、このたび小川国夫の著作がまとまった架蔵の運びに至ったことだから、まずはここから読んでゆこうか。むろん太宰治はこの切り崩し読書の対象とならぬこと、改めて申しあげる必要なきことである。◆

※隣には、同じ新潮社の《純文学特別書き下ろし作品》が何冊か、置かれいたっけ。いうまでもなく、村上春樹の初期に於ける代表作にしていまに至るも村上文学の高峰に位置する『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を、初めて世に出したシリーズである。□

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