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第2702日目 〈NHK-FM「ダミーヘッドによる恐怖の館」から『幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成』へ。〉 [日々の思い・独り言]

 いまは当たり前のような録音機材の1つであるダミーヘッドですが、これで録音されたドラマを初めて聴いたときは、本当に身震いする程の臨場感に驚かされました。むろん、現在のダミーヘッドは当時よりずっと高性能で、拾える音域もずいぶん広くなっていると思うのですが、それだけに今度はシナリオの完成度や声優の力量というものが問われてくるわけですが、このあたりも時代と共にレヴェル・アップしているものと信じたいですね。そう、劣化ではなく。
 ちょっと先走りましたが、わたくしが初めてダミーヘッドを使って録音されたものを聴いたのは、1990年のことでした。NHK-FMが夏場に放送した、日本と海外のホラー短編を脚色して、実力ありきで選ばれた声優たちが熱演した、「ダミーヘッドによる恐怖の館」であります。
 たしかそれよりも前に日本の古典怪談、現代日本のホラー短編が放送されたと思うのですが、こちらはあまり記憶がない。『雨月物語』の「青頭巾」、これはよく覚えています。あとは幸田露伴の「幻談」。こちらは聴いたときの感想などでなく、放送を聴いた翌日や翌々日ぐらいに神保町の三省堂で岩波文庫を買って読んだことの方を、よりあざやかに覚えています。
 海外編の話をするつもりが、横道に逸れてしまいました。
 カセットテープに録音したものを引っ張り出して確認したところ、ポリドリの「吸血鬼」、リチャード・バーハムの「ライデンの一室」、F・G・ローリングの「サラの墓」、アンブローズ・ビアースの「死闘」、レ=ファニュの「カーミラ」の全5話が1990年08月13日(月)から17日(金)まで放送されていたようです(NHKに問い合わせたところ、カセットレーベルに記入したデーターと一致していたので、ちょっと安堵しつつ自信を持ってここに書くことができます)。まさかお盆時期に、海外ホラー短編のドラマを聴けるとは……! と驚喜したような純粋さは、いまのわたくしには残念ながらありません。
 これらのなかでいちばん印象に残ったのは、リチャード・バーハム(Richard Barham)の作品でした。この作品が総合的な観点から見ていちばん、ドラマとしての出来が良かった。
 そのためか、さきほどの露伴ではありませんが、聴き終えたあと、どうしても原作を読んでみたい、という衝動に駆られました。が、お盆が明けるのを待って神保町の古書店街をほっつき歩いたけれど、これを収めた『怪奇幻想の文学Ⅱ 暗黒の祭祀』(新人物往来社 1970)を見附けることは出来なかった。けっきょく同じ日、たまたま下車した川崎の古書店にて全巻揃いを安価で入手できたのですが、真っ先に読んだのはこの「ライデンの一室」だったのですね。この「ライデンの一室」については後に記す理由により、後日改めて感想を書いてみます。
 昨2018年12月末。藤原編集室のTwitterで、平井呈一の入手困難な翻訳を集めた1冊が創元推理文庫から出ることを知りました。その日の訪れを首を長くして、或いは一日専従の思いで待った。そうしてようやく一昨日(そう、飲んだくれた日ですね)になって『文豪たちの怪談ライブ』(東雅夫編 ちくま文庫)と一緒に『幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成』を購入、昨日拾い読みしていたところであります。当然、ここには件の「ライデンの一室」も収録されています。
 ただ、『怪奇幻想の文学Ⅱ』では作者名が「バーハム」となっていたのが「バーラム」と、今日風に訂正されております。一昔前までイギリス中部の町、「レスター」(Leicester)──ロンドン市中にもスペルの同じ公園があります──が「ライセスター」とか表記されていたのが原音表記に近附いたのと同じでしょうか。とは申せ、プロ・ゴルファーのベン・バーハム(Benn Barham)は同じスペルなのに「バーラム」ではない。なにがどうなっているのやら。
 『幽霊島』には前述の「ダミーヘッドによる恐怖の館」で放送されたうち、ビアースを除く4編がすべて収録されている。これだけでわたくしにはうれしい内容なのですが、かつて『幻想文学』誌にて図版で閲覧し得た同人誌「THE HORROR」掲載のエッセイが読めるのがうれしい。雑誌に載ったのは冒頭の数行だけだから、続きが読みたくて仕方なかったんだ。それがようやく……! 『真夜中の檻』もそうだったけれど、創元推理文庫の平井呈一集のいちばんのウリは、付録として掲載されるエッセイの類である。すくなくとも、わたくしにとって価値あるのはこちらであります。
 まだ摘まみ読みの段階だけれど、秋のうちには太宰治をすべて読み終えて、夜長の虫の音をBGMに本書をゆっくり読み耽ろう。そうしてチト早いが恐怖に肌をチリチリさせながら、翻訳の奥の院級のみごとな日本語の文章を、海彼の作家が作りあげた恐怖の物語ともども、存分に堪能しよう。それまで待っててね。
 なお本書に生田耕作との「対談・恐怖小説夜話」を載せる。こちらは生田先生の『黒い文学館』(白水社/1981.9 中公文庫/2002.1)と『生田耕作評論集成』第3巻「異端の群像」(奢灞都館 1993.8)に収録されていたが、いずれも絶版。為、今日この名伯楽同士による丁々発止の名対談を復活させてくれたことに感謝したい。◆