第2706日目 〈映画『フッテージ』を観ました。〉 [日々の思い・独り言]

 久しぶりに直球勝負のホラー映画を観ました。『フッテージ』”Sinister”(2012 米)であります。
 スランプ気味の犯罪フィクション作家が以前殺人のあった家に家族で引っ越してくる。屋根裏で見附けた8㎜フィルムには、この家のみならずかつてアメリカ各地で起こった未解決の殺人事件の記録が収められている。どうやらそれは殺人の実行犯が撮影したものらしい。それを契機とするように徐々に作家の周囲で勃発する奇怪な現象。一連の殺人事件の裏には、古代バビロニアの邪神、ブグールことミスター・ブギーが関わっていることが判明する。プグールの邪気は子供がいちばん感染しやすいという。遂に被害は家族にまで及び、事ここに至ってようやく作家は曰く付きの家を離れて許の自宅へ戻るのだが……。
 というのが、映画の粗筋。あいかわらずこういう作業がへただな、わたくしは、気を取り直して、では、──
 本朝の怖い映画『リング』のヴィデオ・テープが放つ禍々しさに、かつてわれらは恐怖したのですが、『フッテージ』はそのさらに前の映写機械である8㎜フィルムが恐怖を運び、邪悪なものを主人公たちの身辺にはびこらせるツールとなった。ざらりとした質感の映像がもたらす緊迫感、フィルムに付いた傷が視聴者に与える不安感、映写中に機械から発せられる低いモーター音、いずれもヴィデオ・テープを凌駕しています。どうしてだろう、と考えると既に今日の、多くの人々にとって8㎜フィルムが博物館級の遺物で、<未知なる過去の機械>であるためではないでしょうか。
 主人公は自分の書斎で件の8㎜フィルムを観続ける。スクリーンに映る残虐な殺人の光景は、ほんのわずかな時間だけ映し出されるだけで、それ以上その描写を追いかけることがない。ここがキモで、一瞬のショッキング・シーンの方が殺人光景を延々と見せるよりもはるかに視聴者の脳裏に望もうと望むまいと永く刻みこまれて、或るときフイに、そのたった数秒しか映し出されたなかった恐怖を思い出して、体を震わせるわけです。『フッテージ』はこれをやってのけたのであります。
 そうして恐怖の本体である古代バビロニアの邪神、プグール。正直なところ、この説明が出たときは「ああ、昔ながらのオカルト映画であったか」としょんぼりしたのですが、豈図らんや。主人公と直接対峙するのではなく、あくまで間接的に、しかしとても効果的に殺人を繰り返し、主人公とその家族から安寧を奪い、容赦ない方法で最後の幕が閉じられる……。これはちかごろのホラー映画からはツブ程も感じられなかった演出の知性と抑制を、感じるのであります。
 映画のラストは当然、お伝えしません。ただ胸くその悪くなるラスト、しばらくトラウマになりそうなラスト、「そう来ましたか」と唸らされてしまうラスト、ホラー映画にはめずらしく納得のゆくラストであったことは、ここでちゃんとお伝えしておこうと思います。どこまでも追っ掛けてくる、って、最悪ですよ。わたくしには、全視聴者に悪夢を見させた『ミスト』と同等の結末でありましたね。
 キングつながりで名前を出してしまいますが、間もなく後編の上映が控えている『IT/イット ”それ”が見えたら、終わり。』(2017 米)を「怖かった!」と叫んで絶讃している向きには、チトこの『フッテージ』の怖さは伝わらないかもしれない。あちらが場末の遊園地にある<こけおどし>のお化け屋敷だとすれば、こちらは逃げ道なし・あるのは絶望だけの人間屠殺場であります。
 力業で最後をうやむやにしてしまうホラー映画が跋扈する昨今(まぁ昔からですが)にはめずらしい、がっぷりと四つに組んで作られた、地味ながら2010年代最恐の映画と断言したい。オカルトを絡めたホラー映画は1960年代から名作とされる作品が幾つもありましたが、ここ十数年は観るべきものがまるでなかった。そんななか現れた『フッテージ』。それら過去の名作たちに肩を並べ得る作品、というて憚りません。
 さて、それでは録画しておいたものを、もう一度観てこようかな。それにしても続編『フッテージ デス・スパイラル』”Sinister2”(2015 米=英)を観るのはこわいな。でも唯一人、俳優陣では続投となる副保安官の活躍は要チェックやな(あ、プグール役も続投か)。◆

監督:スコット・デリクソン
脚本:スコット・デリクソン/C・ロバート・カーギル
製作総指揮:スコット・デリクソン/チャールズ・レイトン
撮影:クリストファー・ノア
音楽:クリストファー・ヤング
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エリソン・オズワルト:イーサン・ホーク(※1)
トレイシー・オズワルト:ジュリエット・ライランス
トレヴァー・オズワルト:マイケル・ホール・ダダリオ
アシュリー・オズワルト:クレア・フォーリー
保安官:フレッド・ダルトン・トンプソン
副保安官:ジェームズ・ランソン(※2)
ジョナス教授:ヴィンセント・ドノフリオ
ブグール/ミスター・ブギー:ニック・キング

※1:マイ・ベスト・シネマ『いまを生きる』”Dead Poets Society”(1989 米 主演はロビン・ウィリアムス!)で優秀すぎる兄を持ってしまった悩める気弱な転校生。トッド・アンダースンを演じた。いやぁ、なんだか隔世の感がありますよ。
※2:『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(2019 米)で大人になったエディ・カプスプラグ役を演じる由。この人のエディは期待できるかも。□

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