第2724日目 〈旧約聖書続編は、おもしろい。〉【修正版】 [日々の思い・独り言]

 これから聖書を買うなら、続編付きを選んだ方がいい。特に助言されて最初の1冊を買ったわけではありませんが、顧みてこの判断は正しかったな、とつくづく実感しております。
 旧約聖書続編はけっして<おまけ>ではない。なくてもあっても構わぬ代物ではない。旧約聖書の時代と新約聖書の時代を繋ぐ、重要な役目を担うものである。その間、約400年。ユダヤ人がどのように生きたか、後にいう<ユダヤ教>が如何に生成され、内部で会派が生まれていがみ合い、忖度し合ったか;そのときそのときの反目と結託が、そこには刻印されている。
 いい換えれば、旧約聖書と新約聖書を読んでいるだけではけっしてわからない、ユダヤ人の生活習慣や、信仰や思想が変質してゆく過程を辿ることが、旧約聖書続編を読むと可能なわけです。或いはその手掛かりが、そこには埋まっているのです。
 いちばんわかりやすいのは「マカバイ記」だと思うのですが、この書物なくして地中海沿岸に誕生した列強国、即ちギリシア王国と共和政ローマですが、これらの国の政策にユダヤ人がどのように翻弄されたか、わかることはできません。
 ヨセフス『ユダヤ古代誌』は旧約聖書と新約聖書の時代を繋ぐ重要な書物ではありますが、これは当時広くローマで読まれていた史書や戦記、地誌などを援用して書かれた古代ユダヤ史であります。
 これの第12巻と第13巻がマカバイ戦争にあてられているのですが、その叙述には旧約聖書続編所収の「マカバイ記」を典拠とするものが、多く見受けられます。ヨセフスが執筆にあたって使用した資料について、わたくしはまだ勉強中でありますため、これ以上私見を述べるのは差し控えますが、「マカバイ記」がその中心にあったことは想像に難くありません。援用された資料があった、ということはつまり、執筆に際して主資料として採用されたものが別にあった、ということでもあります。
 続編が含む歴史書は2つの「マカバイ記」のみとなり、ほかの「トビト記」や「ユディト記」などは歴史の大きなうねりの陰にひっそりと身を潜めて、神への信仰を失うことなく善く生きた人物にスポットをあてた伝記でありますし、「シラ書〔集会の書〕」や「知恵の書」」は箴言と掟、教訓などが諸々綴られた人生論であります。また、「「エズラ記(ラテン語)」は終末や裁きといった事柄に重点を置き、「代願の不可避なこと」や「死後の霊のたどる道」(いずれも第7章)などにも触れた、「ダニエル書」や「ヨハネの黙示録」とはまた趣の違った黙示文学になっております。
 1947年以後発見・研究されている死海文書には、旧約聖書続編の書物も幾つか含まれている。死海文書の作者はエッセネ派に属するクムラン教団、ユダヤ戦争時にクムランへ疎開したエッセネ派の人々が文書を携え来たってこの地へ隠した、というのが定説であります。そうしてこのエッセネ派はグノーシスという(これは1世紀から4世紀まで地中海地方で勢力を持った宗教でありますが)思想の、一宗派である由(エッセネ派についてはヨセフスが『ユダヤ戦記』第2巻で紹介している)。
 グノーシスについては別に稿を持つ予定なのでここで詳述は避けますが要するに、エッセネ派が伝えた旧約聖書の文書にはグノーシス主義の影響も考えられよう、ということであります。むろん、疎開前にそれらは存在していたと考えるのが妥当ですから、エルサレムで書き写される際にグノーシスの思想が混ざりこみ、それがクムランの洞窟へ運ばれて20世紀へ伝えられたのでありしょう。
 旧悪聖書続編を読む際のポイントは、4つに大別できるように思います。
 1つ目は、旧約と新約を繋ぐ歴史の綜合した書物として。2つ目は、新約以前の時代にユダヤ人に影響を与えた列強国の政策がどのようなものであったか。3つ目は、周辺地域から誕生した宗教・思想がどのようにユダヤ人社会のなかへ流れこんだか。4つ目は、3つ目のことが信仰にどのような変質をもたらしたか。
 続編には旧約聖書で語られた出来事や預言が関わってくる箇所があります。また、新約聖書に繋がるような内容も認められます。旧約聖書続編を収めていない聖書は、教会や信徒によっては「否」を強く叫ぶのかもしれないけれど、信仰なき非キリスト者にして聖書を1個の歴史書・思想書・文学書として愉しんで読んだ者にすれば、続編なきは不完全なり、と豪語したい気分なのであります。
 多少価格は高くなったとしても、聖書を買うなら旧約聖書続編付きを奨めたい。ヘルマン/クライバー『聖書ガイドブック』(教文館)や榊原康夫『旧約聖書続編を読む』(聖書授産所出版部)などは、読書の心強いガイド役になるはずです。
 正直なところ、旧約聖書続編を含まぬ新改訳2017などは、2冊目、3冊目として買えばよいと思います。カトリック教会の流れを汲んだフランシスコ会訳には、旧約聖書続編は一部を除いて旧約聖書に取り入れられておりますので、こちらを1冊目にするのも良いが、但し「エズラ記(ギリシア語)」や「エズラ記(ラテン語)」など一部未収録の書物があるので、ご注意を。◆

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