第0310日目 〈0815メモリーズ〉 [日々の思い・独り言]

 08月15日。かつて“9.11”で死んだ友の誕生日である。この日は彼の行きつけだったバーにお邪魔して、ウィスキーを飲むことにしている。友人のために一杯、自分のために一杯。特別な酒。
 於;味も素っ気もない無粋な内装の薄暗いバー。その片隅のスツールにどっかり坐り、両掌でグラスを温めながら、ゆっくり時間をかけて、心に移りゆくよしなしことを弄びながら、ぼんやり思い出に耽りながら、落ちそうになる涙を我慢しながら、日のあるうちから黙って飲む。
 この友人に教えられた作家が3人いる。「さんさんかは絶対こいつらを読むべきだよ。或る意味ラヴクラフトやブロンテ以上に肌の合う作家だから」と、このバーでいつになく熱くそう語っていた彼。その3人の作家というのは、以前一度だけ名前を出したことのあるジム・トンプスン、それとジャック・ケルアックとジェイムズ・エルロイ。“3J”なんていってけらけら笑っていたときもあった。━━ビートニックの騎手ケルアックはその直後、読んでどっぷりはまった。でも『路上』と『地下街の人びと』だけでじゅうぶんだった。
 今日、このバーへ行く前に寄った古本屋の店頭見切り台で、エルロイ『L.A.コンフィデンシャル』(文春文庫)の文庫本上下揃いを見つけた。今日! なんかの導きかな、と思いながら、これを買った。バーでウィスキーを一杯空けたあと、読み始めた。友の顔がちらつく。なぜ彼はこのクライム作家を奨めてたのだろう。滅多に本を奨めるなんてことはしない奴だったのに。
 『L.A.コンフィデンシャル』はかつて映画化された。倉庫で一緒にバイトしていた映画好きの連中が、示し合わせたかのように奨めてきた映画。それから一年近く経ってようやくCSで観たのだが、正直余り話の内容は覚えていない。
 ページをめくる手が少し早くなってきた。心が、徐々にエルロイの世界へ浸ってゆくのがわかる。このまま読み進めるべきか? 答えはわかりきっている。「否(ノン)」だ。他に読んでいる小説がある。それだけの理由だ。幸か不幸か、読書中は実生活同様に浮気はできない性質(たち)だ。本当である。あなた自身の目で見た真実以外のデマや噂を信じてはならぬ。それ(『ブラツク・ハウス』)を読み終えたら、エルロイ(『L.A.コンフィデンシヤル』)に移ろう。
 友人がエルロイ(やトンプスン)を奨めてきた当時、まだ犯罪小説/ノワール小説の類は努めて近づかぬよう己に課してきた禁断の領域に等しい分野だった。理由? 簡単だ。未知のものは恐ろしい、それゆえに。……ミステリは人並みに読んでいたし、好きだったが、だからといってノワールへも易々と手を伸ばせるか、といえば、そんなことはあるまい。キングが好きだからクーンツも同様に読めるか、というのと同列の愚問だ。
 が、時間(とき)は流れて、世界は変転する。行く川の流れは絶えずして、というではないか。あれと同じだ。犯罪小説やノワール小説にも手を出すようになった。この一年ばかりのことだ。肝心なのは、興味や嗜好の変化は劇的に訪れるのではない、ということ。
 おそらく今年中には、エルロイの感想も認めてこのブログでお知らせできるだろう。◆

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