第1300日目 〈これからオペラを聴こうとする知人へ。〉3/3 [日々の思い・独り言]

 ――いかにして最初の障害を乗り越えるか。
 すべてはここに掛かっているのでしょう。ファースト・チョイスが重要な意味を持ってくるわけです。
 繰り返しになりますが、わたくしがショップで働いていた時分も、何人ものオペラをこれから聴きたい、という方が居られました。同僚にもそういう人がいました。そんなときにわたくしが必ず答えていたのが、①国内盤があること、②名作として受け継がれ、録音も映像も複数種類揃っていること、③お店で頻繁に在庫がなくなること、でした。
 そんな条件に合う作曲家は誰なのか、ということですが、2人の人物の名前が脳裏に浮かびます。
 プッチーニとビゼーです。まずこの2人のオペラを聴け、というのが、わたくしの決まりきった回答。ここにはオペラのエッセンスが詰めこまれている。愛、嫉妬、勘違い、殺人、暴力。メルヘンとヴェリズモの間をたゆたう作品を書いて、うまくヒットした、いちばん人口に膾炙した音楽を書いた作曲家たち。
 (本当はロッシーニも入れたいのですが、如何せん国内盤が少なく、チョイスの幅がありません。でも、これぞオペラの精髄を体現した典型的オペラ作曲家なのですが……。)
 加えてプッチーニの場合、オペラ作曲家としては稀な程、台本に自分の意見を反映させた人でした(おそらくこれに並ぶ存在は、自分で台本を書いたワーグナーを別格とすれば、リヒャルト・シュトラウスぐらいでありましょう)。お陰でプッチーニが遺したオペラは後期の一部を除いて、どれもが歌劇場のスタンダード・レパートリーの地位を確立し、古今東西、録音も録画も群雄割拠しております。殊に《マノン・レスコー》から《蝶々夫人》に至る4作は、万難を排してでも聴くなり観ていただきたい作品です。
 ビゼーは、やっぱり《カルメン》。これに尽きる。オペラの代名詞ともいえる《カルメン》聴かず/観ずしてオペラを敬遠するのは、大いなる損失ですよ。それに、これを聴くなり観るなりしてからでもオペラへの感情を決めたって、まったく遅くはないと思います。あなたが挙げた《真珠採り》なんぞ、聴くのは100番目くらい、ずっと先でよい。
 ヨハン・シュトラウス2世のオペレッタ《こうもり》についても書きたいのですが、それだとちょっと長くなって退屈させてしまうかもしれませんからやめておきます。が、この作品ぐらい音楽と芝居の愉悦を堪能させてくれるものはないでしょうね。

 まずは聴く、観ること。百聞は一見に如かず。
 斜に構える必要なんて、まったくない。
 オペラは大衆の娯楽だったのです。映画を観るような、音楽を聴いたりと同じような感覚で接すれば、それで結構ではありませんか。
 こちらが勇気を出して始めの一歩を踏み出せば、きっと求めに応じて答えてくれる分野です。
 さりながら、オペラの場合、映像を伴わないと最初はきついかもしれない。幸いなことにかつて小学館から『魅惑のオペラ』というシリーズが出ていました(全20巻+4巻)。わたくしも書評サイトでレヴューいたしましたが、由緒ある歌劇場や音楽祭で一流の音楽家たちによって、奇をてらわぬ演出で上演された、真に観るに値する作品が安価で入手できるシリーズでした。これを全部買うのもいいでしょう。
 20作品のなかでわたくしの好みをお奨めとして列記させていただきますと、《カルメン》、《トゥーランドット》、《魔笛》、《こうもり》、《セビリアの理髪師》、《トスカ》、《後宮の誘拐》、《エフゲニー・オネーギン》、《メリー・ウィドウ》、《ホフマン物語》、《ローエングリン》、《ニーベルングの指輪》、といったところでしょうか。
 なによりも大切なのは、先入観を捨てて最初の一歩を踏み出すこと。何度も聴く(観る)。これに尽きると思います。
 ご質問への回答にはなっていないかもしれませんが、以上にて筆を擱きます。
 ご自愛を祈ります。◆

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