第2970日目 〈渡部昇一『なぜか「幸運」がついてまわる人10のルール』を読みました。〉 [日々の思い・独り言]

 大島淳一はジョゼフ・マーフィーの翻訳者としてのみ知られ、マーフィー理論を日本に初めて紹介した人物としてのみ知られる。その大島淳一が実は渡部昇一であると知ったときの衝撃は、大袈裟ではあるけれど計り知れぬところがあった。その一方で、さもありなん、と思わしめる部分もあった。
 著作をずっと読み通してゆくうちだんだん強く感じるようになったことだが、渡部昇一は基本的に楽観的な物の考え方をしている。カトリックゆえ新約聖書の「明日のことは明日思い煩えばよい」てふイエスの言葉を実践しているのだろう、ぐらいにしかはじめは思わなかったが、どうもそうとばかりは捉えられなくなってきたのである。
 この楽観さはもっと底が深い。そうして或る種の信念に裏づけられている。どうしてだろう? 疑問を心の片隅で転がしながら答えをなかなか見附けられぬまま時間が過ぎてゆくなか、偶然からマーフィーの本を購い、そのあとがきで大島淳一=渡部昇一と知ったことで「ああ、なるほど」と膝を打ったのである。
 規則正しく願いを心のなかで唱え、具体的なイメージを思い描き続けていれば、それはかならず実現する。遅かれ早かれ、しかし当人の望む形で。渡部氏は願望の実現を絶えずイメージし続けることで、最期の時まで充実した知的生活を実現することができたのだろう。
 余談ではあるが、教え子たちの間では最初のマーフィー本が出たときから既に、大島淳一=渡部昇一説が囁かれており、確かめに行こうと決めたはいいがなかなか行動へ移せぬうちに渡部自らがそれを告白するに至った、という(『学びて厭わず、教えて倦まず』P 辰巳出版 2020/08)。
 渡部氏の口癖の一つは「ムシのいいことだけを考える」だったという。没後になって長男や教え子の口から紹介されるようになった。これを思い出しながら読んでいたのが、『なぜか「幸運」がついてまわる人10のルール』(三笠書房 2003/12)。アラン『幸福論』から適宜引用しつつ、<運のつかみ方>10のルールを開陳した本である。これ以前も、これ以後もさまざまな場面で渡部氏はここで披露されるルールを説いてきたが、本書はおそらくそれらが一堂に会してもっとも純度の高い1冊であることは疑うべくもない。
 <10のルール>とは、では何か。端的にその核となる部分をいえば、このようになる、──
 第1章:目に見えず、しかも常に形を変えてわれらの前を通ってゆく”運”をどのように摑まえ、願望実現のために使ってゆくか。
 第2章:濃縮された夢や成功のイメージを育むことでアンテナは敏感になり、願望を実現させる具体的な方法がわかるようになる。
 第3章:常に目配りを怠らずにいれば他人にはわからぬカリスマ性を見抜くことができ、またそういう人の下で働くならば自ずと幸運はその人のところに訪れるだろう。
 第4章:一旦強い意志持てやると決めたことは断固としてやり続ける、時にはこれまでの鎧を脱ぎ捨てて自分のためになることをやることも必要となる。
 第5章:〆切1日前のルール遵守で他人からの信用を得、「借り」のある人生から脱却して本当の自由を得る。
 第6章:思い通りにならずとも一つのことを続けていればいつしか手応えを感じられるようになり、それが面白さにつながって困難を困難と感じなくなる(結婚も同じ!)。
 第7章:裏表のない父であれ、尊敬できる人を見附けて徹底的に真似よ、悪習は己の意思次第でどうにでも操れる。
 第8章:知力、殊に記憶力と体力(健康)を常に鍛えあげることで、脳の活動も活発化して”知”という真理に裏打ちされた自由な発想を生むことができる。
 第9章:お金の貯め方・使い方に敏感であれ、使うべき場面ではバンと使え、清貧の思想にだまされるな。本多博士に倣え。
 第10章:常に次のステップ、上の位を見据えて勉強に励み、その位置に就いたときを想定せよ。その工程表をあらかじめ作成して実行することで余裕が生まれる。
 ──要するに、如何に”運”を摑まえ、自分を向上させてゆくトレーニングを欠かさず生きるか、そのための基盤となる経済と健康については常に堅実で正直であれかし、ということだ。
 雨に濡れて小口がゴワゴワになった1冊ではあるけれど、これはたぶん、ずっと繰り返し読むことになるだろうな。ここに書かれてることは渡部昇一が自分の体験や、豊富な読書経験と人間観察に基づいた、<本当のこと>なのだから。
 もっとも、仕事に関する箇所には、「ああ、会社組織を内側から見たことがなく、人間関係に揉まれたことのない、即断即決しなければならない立場で現場の指揮をすることとは無縁で終わった人の、内容空疎な戯言だな」と思わざるを得ない部分もあるけれど、まぁ、これは致し方のないところでしょう。会社員はこの部分については読み飛ばしたって構わないと思います。
 人生に手応えを感じたくば、まずは自分にとってムシの良いことを考えよ、然る後に<10のルール>に基づいて願望を実現させるための筋道を作って実行せよ、さすれば結果は自ずと己の望む形で現れる。でもこれ、変奏されてこそあれ、根本はマーフィー理論なんですよ。やはり渡部昇一はマーフィー理論の実践者でありました。◆


なぜか「幸運」がついてまわる人10のルール

なぜか「幸運」がついてまわる人10のルール

  • 作者: 渡部 昇一
  • 出版社/メーカー: 三笠書房
  • 発売日: 2021/03/16
  • メディア: 単行本




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