第3435日目 〈そのとき、甘利氏はなにを言ったのか?〉 [日々の思い・独り言]

 安倍元首相の追悼演説が臨時国会中にされるはずだった。演説は、安倍政権を支えて<3A>の一角を担った甘利前自民幹事長が担当するはずだった。登壇は昭恵夫人の意向もあった、という。
 国葬の件と合わせて野党は猛反発した。元首相や首相の追悼演説は野党第1党の党首クラスが行うのが慣例である、と。仕事を奪われた新人がSNSで愚痴るような物言いに聞こえる。しかし、過去の例を見れば野党の言い分も宜なるかな、である。
 非難の声があがっても、自民党は甘利氏登壇を変えることはなかった。が、事態は急転直下、思わぬところから反甘利の声があがる。そうして、それが決定打になった。
 07月28日夜である。TwitterのTLに、毎日新聞のツイートが流れてきた。曰く、「『残した派閥をばかに』安倍派の猛反発で甘利氏の追悼演説頓挫」と。野党の猛反発ゆえに頓挫した、というわけでないところがミソか。
 甘利氏は自身のメールマガジン(07月20日付)にて清和会(安倍派)を指して、「『当面』というより『当分』集団指導性をとらざるを得ない。誰一人、現状では全体を仕切るだけの力もカリスマ性もない」と発言。
 それに対して清和会最高顧問・衛藤征士郎は「こんなに侮辱されたことはない」といい、同派メンバーからは「安倍元首相の残した派閥を馬鹿にする発言をした甘利氏に、追悼演説を任せるな」などの声もあがった、と記事にはある。
 「甘利さん、このタイミングで清和会の神経を逆撫でするような発言は、ダメだよ」と失笑してしまった。
 人は自分の思うようにしか情報を咀嚼できない。自分のことを指摘されて、それが如何様にも受け取れる場合は悪い方向へ解釈するパターンが多い。清和会もそうだった。甘利氏は、今後の清和会の動向に注視したい、と続けるがどうやらその部分、清和会の幹部たちの目には入らなかった様子。それが「安倍元首相の残した派閥(=自分たち)を馬鹿にしている、侮辱している」という発想へ至ったのだろう。なんと単純、浅薄な……。短絡的な思考に過ぎはしないか。
 甘利氏はそんな意味合いで、件のメルマガを書いたのではあるまい。盟友が遺した派閥の呉越同舟ぶりを見かねて、敢えて忠言したものと思われる。
 そう、敢えて、といおう。所詮は別派閥の台所事情である(甘利氏は麻生派)。最大派閥ゆえにまとまってしまえば時に難敵になるが、分裂してくれればどのようにも使い途のある人々なのだ。放っておいても良かったのである。それでもなお、「敢えて」メルマガで斯く忠言したのは、安倍元首相と政権の苦楽を共にして、アベノミクスを推進する立場であった盟友だからこそ、だったのだろう。
 発言の一部を切り出して、本来の文脈とはまるで異なる論調を張ることを、「意図的な情報操作」という。今回のように発言の一部をのみ論って意図を根本的に理解していないことを、「国語力と読解力の貧困を自ら露呈する」という。
 清和会の顔触れを見ると、皆さん、相応の教育を受けており、相応の職歴を誇り、相応の教養もあって可笑しくない人たちなのだが、……(建前であっても)国民から信任されて選ばれた人たちが国政の場にいる、とは「公民」の授業で習ったことのはず。しかし、おつむの程度まで投票基準にないのは残念──あ、落選する人、多くなっちゃうか。
 元より国葬の件も併せて、与野党から疑問・反発の声大きかった、来月臨時国会での甘利氏による追悼演説は流れた。与党からは、甘利氏が演説することで野党が退席する可能性もある、と懸念があり(こ、子供過ぎる……。牛歩よりも非道い)、野党も先述した首相経験者の追悼演説は野党第1党党首クラスが行うのが慣例である、てふ主張と、そもそも国葬にした経緯や説明がきちんとされていない以上追悼演説を認めることはできない、という理由から甘利氏の追悼演説に「否」の大合唱が出ていた。
 結局、清和会の猛反発を決定打に、臨時国会中の安倍元首相追悼演説は見送られた。秋の臨時国会以後の演説を予定している、というが、さて、人選を含めてどうなりますことやら。野田元首相の名が挙がっているのは、第2次安倍政権誕生直前の内閣総理大臣だった点も併せて、なかなか良い選択と思うのだけれどな。
 さて、甘利氏。07月29日にTBSのCS番組「国会トークフロントライン」の収録で、こんな風に語ったという。曰く、──

 (前略)弔意を国の内外に代表して追悼の演説するというのは静かな環境でやるべきだと思っていますから、……最長の期間、国のトップをされて世界中が敬意を表する人の言ってみれば追悼ですから静かな環境でやるべき。

──と。追悼の演説は「静かな環境でやるべき」、至極ご尤もな、真っ当極まりない指摘だ。与党も野党も、声をあげて騒がしくすれば良いわけではないぞ、という皮肉も感じられるな。
 それにしても甘利氏、(第2次)安倍内閣の総退陣後は、昨年の横浜市長選といい今回の件といい、踏んだり蹴ったりの歳月を送っているように映るのは、気のせいではあるまい。◆

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