第3588日目 〈きょう読んだ怪談3冊。〉 [日々の思い・独り言]

 年末年始の読書が久しぶりに小説中心となったのは、脳味噌がふやけて蕩けた結果でありましょう。そんな頭を抱えて読むにノンフィクションや教養書の類は、どうも相応しくない。この時期くらい絵空事の物語に耽溺したいですよ。それが実話を元にした作物であったとしてもね。
 娘が遊び疲れて寝てしまったら、その傍らで炬燵に入って本を読む。母も、奥方様も、それぞれのことで忙しい。呼ばれぬ限りは炬燵に潜りこんでミカンかどら焼きを食べながら、部屋から運んできた文庫の小説を読む。──時間がゆったりと流れてゆくのを感じながら、不安や恐れは心の片隅に、この間だけでも追いやって、いま生きてあることの幸福を噛みしめながら。

 小説を読んでいるとはいえ、天板に積みあげたのは「なんだかなぁ」と呟きたくなるジャンルばかり。皆々、怪談、なのです。橘外男『蒲団』、赤川次郎『幽霊の径』、M.D.クック『図書室の怪』……どれもいずれ──遅かれ早かれ、Twitterで読了報告をすることになるであろう3冊。
 クックは、何年も前に(実は発売間もなく)買いこんでそのままなぜか放置していたのを、大掃除で発掘し、そのまま大晦日の朝から読んでいたのですが、いやぁ、こうしたクラシカルで端正な作風の怪談は大好きです。世界のホラー小説の風潮がどうなろうと、英国にはどんな時代でも礼儀正しく古典的な骨格を持った怪談が書かれ続けていることに、なにとはなし心強く思うのであります。
 恥ずかしながら橘外男は、20歳前後で図書館から借りた怪奇小説アンソロジーで「逗子物語」を知っているだけで、他の小説はただの1編も読んだことがなかったので、今回が事実上の初読の作家となる。どうしてアンソロジー・ピースとされる「蒲団」まで読んでなかったんやろ。うん、これはね、「蒲団」はね、凄惨ですよ。現代の目から見たら展開も因果も底がすぐ割れてしまうんですが、それを支えるのがやはり文章。怪談を語る一人称としては、堰を破って暴れる本流のような勢いがある。なにげない一文に〈おぞましさ〉が潜んでいる。増上寺の謎の失火と絡めたあたりは中々うまい筆さばきだな、と思いました。個人的に本集のベストは「棺前結婚」。他の日に感想文をお披露目しますが、そこではこの作品が中心になる筈なので、いまは語るを省きます。
 赤川次郎のこの長編は……何度読み返したことだろう。これまでも氏は怖い話を幾つも書いてきたが、正直にいうとやや「ぬるい」作物がかなり目立った。『怪談人恋坂』と、ちょっと目先を変えても『黒い森』くらいかしら、このジャンルの良作というべきは。と、ここに『幽霊の径』が入るわけだからこの3作を以て「赤川次郎の怖い話ベスト」と呼んで良いように思う。読み終えたあとに圧し掛かってくる「どうしようもない虚しさ」は、今回も健在であった、と書いて筆を擱きたいが、エピローグは蛇足だよなぁ、という感想はむかしもいまも変わらない。◆

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