第3603日目 〈こんな夢を見た(その12):雨の午前、春の夕暮れ。〉 [日々の思い・独り言]

 会いたい人、会いたくない人が多々登場した夢であった。

 第一景
 或る雨の午前。会社のレセプションが、28階ホールで行われた。ホールで行う程度のレセプションである。その内容、その規模、推して知るべし。
 そのなかにかつて世話になり、わたくしが裏切ったことになっているUがいた。正対する位置にいる。めざとくこちらを見附けたUは、傍らのMの耳許に口を寄せ、囁いた。2人の向ける眼差し、そこに現れたるは広義の悪意である。
 レセプションが終えて散会となった途端、何の意図あり何の云うことあるか不明ながらUとMはこちらへやって来る。床は、かれらが一歩足を運んで着地する毎に沈んで足跡を残す。人垣から失笑が洩れる。が、かれらは床が沈んで自分たちの足跡が残ってゆくのも、周囲から洩れ来る小さな笑いも、気が付かぬ様子だ。かれらはあと数歩のところまで来た。
 そのとき、ビルは雲に呑みこまれ、細長い影が幾つも窓の外を通っていった。誰もそれに気が付いていない、当然わたくし以外は。その細長い影が突然、こちらへ向いた。名状し難い窮極の恐怖の1つがわれらに気附き、禍々しい貌をこちらへ向けたのだ。一千万の虹色の泡を湛えた口腔は窓を突き破り、かれらを一呑みして窓の外へ消え去った。ふしぎとその間、世界から音はなくなっていた。誰もかの細長い影の咆吼も聞かなかったし、連衆の断末魔の叫びも耳にしていない。それは生き残った者にとってとても幸福なことであった。

 第二景ノ一
 春の夕暮れである。教室のような部屋で、衣服をはだけさせてIさんがいた。靴下をはいている途中だった。10年ぶりの再会である。あの人は往時と変わらぬ美しさを保ち、変わらぬ体型で、そこにいた。Iさんの髪は濡れていた。水滴が滴り落ちている。
 話した内容は夢のなかに消えて、記憶から拭われてしまった。
 視界の外から姿を見せたのは、誰も知らぬNである。刹那の後、Iさんは脇腹を押さえて、わが名を口の端から洩らして床へ倒れ伏した。
 だれもが息を呑んで、立ち尽くした。目の前で行われたことが現実だと、すぐには判断できなかったのだ。Nの手には鮮血滴り落ちるナイフが1本。返り血を浴びたNは笑い声をあげながら、その場で踊った。サロメのように。Iさんの両の眼は開かれたまま、そんなNを見あげている。

 第二景ノ二
 Nは逮捕された。警察署に連行されてゆくNはおとなしかった。アースカラーのセーターを着ている。署内の狭い通路を行くN、その前後に1名ずつ警察官。そうして目撃者の1人であり、Nの要望により立会人の如き立場で同席する、わたくしの計3名。
 ロッカーの並ぶ部屋からその階いちばん奥の小部屋へ行く途中、折りたたみ式の長テーブルが置かれた部屋が通った。そこには数多の補導されたと思しき高校生がいた。彼女らは連行されてゆくNに遠慮ない好奇の目を向け、聞こえるような声で嘲笑し、野次を飛ばした。Nは気丈にそれを無視して、わたくしの後ろから歩いて来る。
 警察官とNが取調室に入った。わたくしは隣の部屋から、Nを見ていた。黒い髪を後ろで1つに束ねたNは、素直に警察官の質問に答えている様子である。
 取調室に入る直前、警察官の1人が、「あなたがいれば彼女も素直に犯行動機など供述してくれるでしょう」といった。が、それは無用の手配であったようだ。
 春の日は暮れてゆく。Nは故郷へ帰ってゆく。建物の外、遠くの方で春雷が聞こえた。細長い影の咆吼が、それに混じっている。◆

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