第0955日目 〈雅歌第7章:〈もう一度出ておいで、シュラムのおとめ〉&『夜のガスパール』;ベルトラン→ラヴェル〉 [雅歌]

 雅歌第7章です。

 雅7:1-14〈もう一度出ておいで、シュラムのおとめ〉
   合唱
 1:もう一度出ておいで、シュラムのおとめ
  もう一度出ておいで、姿を見せておくれ。

  マナハイムの踊りをおどるシュラムのおとめに
  なぜ、それほど見とれるのか。

   若者の歌
 2:気高いおとめよ
  サンダルをはいたあなたの足は美しい。
  ふっくらとしたももは
    たくみの手に磨かれた彫り物。
 3:秘められたところは丸い杯
    かぐわしい酒に満ちている。
  腹はゆりに囲まれた小麦の山。
 4:乳房は二匹の子鹿、双子のかもしか。
 5:首は象牙の塔。
  目はバト・ラビムの門の傍らにある
    ヘシュボンの二つの池。
  鼻はレバノンの塔、ダマスコを見はるかす。
 6:高く起こした頭はカルメルの山。
  長い紫の髪、王はその房のとりこになった。
 7:喜びに満ちた愛よ
  あなたはなんと美しく楽しいおとめか。
 8:あなたの立ち姿はなつめやし、乳房はその実の房。
 9:なつめやしの木に登り
    甘い実の房をつかんでみたい。
  わたしの願いは
    ぶどうの房のようなあなたの乳房
  りんごの香りのようなあなたの息
 10:うまいぶどう酒のようなあなたの口。

   おとめの歌
  それはわたしの恋しい人へ滑らかに流れ
  眠っているあの人の唇に滴ります。

 11:わたしは恋しい人のもの
  あの人はわたしを求めている。
 12:恋しい人よ、来てください。
  野に出ましょう
  コフェルの花房のもとで夜を過ごしましょう。
 13:朝になったらぶどう畑に急ぎ
  見ましょう、ぶどうの花は咲いたか、花盛りか。
  ざくろのつぼみも開いたか。
  それから、あなたにわたしの愛を捧げます。
 14:恋なすは香り
  そのみごとな実が戸口に並んでいます。
  新しい実も、古い実も
  恋しい人よ、あなたのために取っておきました。

 アミナティブの車に乗せられて姿を隠した(?)シュラムの乙女に、なぜそこまで惚れこむのだい? そんな問いかけに若者が臆面もなくその理由、即ち処女子のすばらしさを滔々と歌いあげています。おとめの歌はそれに対する返歌であります。
 読んでいただければおわかりのように、本章で交わされる歌は、交歓と合一、法悦と歓喜の歌です。なにか述べ足す必要があるでしょうか。わたくしなぞは単純に、諦念しつつも憧憬を、否応なく抱かされる者であります。「わたしの願いは/ぶどうの房のようなあなたの乳房/りんごの香りのようなあなたの息/うまいぶどう酒のようなあなたの口」……。



 詩集がどうたらこうたら、という話を昨日しましたが、そうして買い直した本のなかにアロイジウス・ベルトラン『夜のガスパール』(岩波文庫)があります。散文詩というジャンルを開拓した記念碑的な詩集です。これを先日読んでいたら、不意に、これに材を取ったラヴェルのピアノ曲が聴きたくなった。選んだのはNAXOSからリリースされていたクラーラ・ケルメンディによるCD。ラヴェルのピアノ曲は勿論、《夜のガスパール》を初めて聴いた音盤でもあります。いうなれば、わたくしにとっての名盤でもあります。
 耳がはっきりとこれに馴染んでいるせいでか、その後ラヴェルのピアノ曲を求める際はこれが判断基準になってしまい、ゆえに久しぶりにこうして聴いても安堵すること頻りなのですが、例の《夜のガスパール》については疑問が残りました。演奏について云々するとか、違うピアニストの演奏の方が良いとか、そういうことではありません。
 文学から受けるイメージはそれぞれ異なるはず。文学作品を典拠にして作曲された音楽の場合、作曲家の想像力やそれを音符に移し替える技能が露骨に試されているように思うのです。言葉を一つ一つ掘り起こすようにして音楽を付けてゆくのと、全体から受ける印象に基づいて音楽を付けてゆくのとでは、まったく異なってくるのではないでしょうか。《夜のガスパール》についていえば、わたくしには後者であります。詩と曲のイメージが合致しない、という甚だ主観的な理由からです。でも、印象に基づいて自在に想像力を飛躍させるのですから、結果的に原作から離れたところで音楽が成立する、というのは逆説的ながら真実の一端を突いている、と感じるのも、また事実。
 この《夜のガスパール》だけでなく、ドビュッシー《牧神の午後のための前奏曲》(マラルメ)やチャイコフスキー《テンペスト》(シェイクスピア)、シェーンベルク《浄められた夜》(デーメル)など、文学に基づいて作曲された音楽は有象無象に存在します。これらを原作と一緒に鑑賞しながら如何にして音楽へと発展していったか、を考えるのは、なかなか愉しい作業であるように思います。文学と音楽を愛する方には是非お奨めしたいホビーであります。◆

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