第1372日目 〈サミュエル・スマイルズ『よく考える人、よく動く人』(『自助論』)を読みました。〉 [日々の思い・独り言]

 原稿を書く場所を求めて今日寄り道した先は、最寄り駅から徒歩1分の所にあるカフェ・ド・クーリエであります。そっと小声で申し添えれば、人生初<カフェ・ド・ク>――本当なんだ、信じてくれ。いつも電車のなかから見ていて、一度行ってみたいものだなぁ、と熱い溜め息をそっと零していた場所。自分の会社とは無関係のオフィス・ビルのなかに在っては余程の用事を作らない限り行くことはないでしょう? 然るに今回は仕事を終えてあと、原稿を書くための<基地>をいろいろ開拓しようという使命の下に今日偵察がてら寄ってみよう、と思うた次第です。
 わたくしはいまここでサミュエル・スマイルズ『よく考える人、よく動く人』(竹内均・訳 三笠書房)を読んでいる。原題を『Self Help』、広く知られる書題としては『自助論』、かつて明治期に中村正直訳『西国立志編』の邦題で出版以来多くの読者を得て近代日本の若き力を生み出す因子の一つともなった人生論の古典であります。『西国立志編』は講談社学術文庫で読むことができます。
 竹内訳『自助論』は三笠文庫にも入って手軽に読むことができる他、単行本が幾度かに渡り装丁や書題を変えて刊行されている。いま、わたくしのカバンにあってカフェドクにて読書中のものは2001年6月に改題の上、新たに単行本としてお目見えした版だ。成人するかどうかという時分に古本屋で購入した文庫はちょっと読める状態ではないため、ブックオフの105円コーナーで拾い出した『自助論』改め『よく考える人、よく動く人』は座右に置きたい名著の一つとなっています。
 内容については既に人口に膾炙したところであるが、未読の方へそれを伝えれば、志を立て、自らを律した末に功成り名遂げた人々の成功の秘訣、修身のヒントがこれでもか、とばかりに蓄積されたのが本書である。少し長くなるが、巻末に載る竹内氏の言葉を引こう。「自助とは今日でいう自己実現である」と前置きした上で曰く、――
 「その方法としては勤勉・正直・感謝以外にないというのが私の結論である。この中ではもちろん勤勉が最も重要である。ともかくも大きい夢を描き、その夢の実現に向けて倦まずたゆまず働くことである。『天は自ら助くる者を助く』――こういう人を天は助ける。彼の夢はいつの間にか実現する。世の中にこれほど確かなことはない。そういう意味では、この世は因果応報・善因善果・悪因悪果の世である。
 この本では、これでもかこれでもかといった具合に多くの人物の例をあげて、このへんのところが詳しく論じられている。これだけの例をよくも集めたものだと、スマイルズの根気強さにあきれるほどである。しかしこの点がまさにこの本の魅力であり、この本が世界十数カ国語に訳されたベストセラーとなったゆえんでもある。明示の青年たちがこの本を読んで奮い立ったのも無理はない。」(P271-2)
 この数日、わたくしはちょっとした空き時間に、適当に開いたところを漫然と読んでおるわけですが、やはり心へ深く刺さるのは、わが身に痛く覚えのある行いに触れた部分である。借金と飲酒、わたくしはこの2つに首まで浸かって自由の利かぬ頃を過ごしていたことがある。借金についてスマイルズは「借金への第一歩は嘘つきへの第一歩となる。そして借金がふくれあがるにつれ、嘘は新たな嘘を生み出していく」(P165)といい、飲酒については、誘惑のなかでも最悪の部類に入る、という。そうして、いう――
 「悪癖に敢然と闘って勝つには、世間並みの思慮分別だけでは十分といえない。もちろんそれも役には立つが、さらに高いモラルを身につける必要もある。自分の考えや行動に高い基準を設け、悪習を改めるのとあわせて道義心を強め、みがき上げていかねばならない」(P172)――他にどんな言葉を添えるべきだろう?
 悪行に耽るより前に『自助論』を読んで感銘を受け、心に信じるものを持った正しい人になろう、としていたはずなのに、どうしてわたくしはこんな悪行に手を染め、ずるずると身を沈めてしまったのだろう。その渦中にあるときも手にしているのに、どうしてスマイルズの言葉、そのなかに息附く偉人・賢人らの言葉や行動が心へ届かなかったのだろう。不思議に思うより以前に自分を恨み、罵り、当時に帰られるならひっぱたいてでも本道へ戻してやりたい気分だ。
 スマイルズはチェスターフィールド、ハマトン、ヒルティ、ダウアーと並んで若き頃のわたくしを育み、指針を与えてくれた人物である。その教え、その説くところは残念ながらわたくしを常に律し続けたとは言い難いが、いつだって書架のどこか目に付くところにスマイルズの本はあり、灯台のような役割を果たしてくれていた。まだ人生というものがどういうものなのかよくわからず、なにになればよいのか、なにをすればよいのか、迷っていた19歳から24歳の時期にスマイルズの『自助論』に親しんだ幸運にわたくしは感謝している。多分これから命尽きるその日まで、それは――座右の書となるであろうがそれはまだわからぬことだ――荷物のどこかに紛れこんで共に在るのだろう、と薄々感じている。
 むかしのわたくしのように人生をまだ決めかねている年齢の人たちに、特に読んでほしい一冊。オタメゴカシでも誇大表現でもハッタリでもない。わたくしの本心である。君たちよ、わたくしの轍を踏むなかれ。◆

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