第1447日目 〈きょうのこと〉 [ウォーキング・トーク、シッティング・トーク]

 今日の休み程ありがたく、仕事しなくて済むことをありがたく感じたことはない。もうね、潰れちゃいそうなんですよ、あまりのネガティヴ・ワーキングに。うん、マジでそうなんだ。
 で、偶然にも今日は昼間にかの婚約者と会う予定が入っていた。以前なら喜び勇んで、疲れたからだとへし折れそうな心をよそに置き、ただ彼女と逢えることに浮かれて待ち合わせ場所へ向かうところだが、……彼女のもう一つの仕事を知ったいまでは、そこへ向かう足取りは決して軽くはない。
 おそらく普段なら食事したり買い物したりしたあとは、普段の流れからホテルへ入ることになるのだろうが、いまの自分に彼女を抱くことはできない。以前のような愛情を感じられないからだ。

 それでも待ち合わせ場所に立っていた彼女は綺麗だったよ。いつもの、ほんわかとした空気をあたりに漂わせる、マイナス・イオン放出中のエアコンみたいな彼女だった。見た目は少し地味目な田舎育ちのお嬢さんだけれど、それがまた却って良いのだ。
 目が合うや、彼女は思いきり腕を振って背伸びして、周囲の視線を自分と僕に向けさせた。僕は小走りに走って彼女を脇に抱えて、脱兎の如くその場を離れた。恥ずかしかったわけじゃぁない。そんな可愛らしい彼女を周囲の好奇の目に曝したくなかったのだ。
 人通りのあまりない路地で僕は彼女を下ろし、ゼイゼイいう息を整えた。彼女は僕の顔を覗きこむようにしゃがみこみ、だいじょうぶ? と訊きながら、にっこりと笑んだ。しゃがんだ拍子にスカートがまくれあがり、下着がちらりと見える。
 顔を背けたのはその光景ゆえではない、その笑顔になぜか胸苦しさを感じたからだ。
 ねえ。上目遣いで僕を見ながら、「まだわたしと結婚したい?」と彼女が訊いた。◆(続く)

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