第1656日目 〈Podcastでこれを聴け! Wis氏朗読による萩原朔太郎「猫町」がオススメ!〉 [日々の思い・独り言]

 昨日の続きを書きます。前回は就寝時はオーディオブックをiPodで聴いており、殊楠木華子が朗読した泉鏡花「怪談女の輪」がお気に入りである旨、一本の原稿としてお披露目させていただきました。今日はそれ以外によく聴くオーディオブックやPodcast、或いはiPodに取り込んだ朗読CDを取りあげてゆこう、と思い、筆を執りました。
 「怪談女の輪」以外にトップ25に入っている朗読作品は、丸山薫の詩「汽車に乗って」とWis朗読による永井荷風『隅田川』である。どちらも朗読の声と作品がマッチしていて頗る付きの逸品なのだけれど、ただ残念ながら後者に於いては若干「さ」行の発音が耳に付くのが玉に瑕。それを除けば繰り返し繰り返し聴き耽り、それこそ原作小説を久しぶりに引っ張り出して、朗読のペースに合わせて活字を追ってみたい誘惑に駆られるのだが……。
 「さ」行が耳に障るこの問題、iPodの音質を変えてみても特に改善されることはなかった。機械的にイコライジングしても根本的な問題は解決しないし、それで問題点が目の前から隠されてしまうわけでもない。可能性の域を出ぬ点では同じだが、この問題については朗読者の声質というだけでなく、もしかすると録音時の環境や機材などに基づく諸事が要因となって露見した欠点であるかもしれぬ。というのも、同じ人が朗読した国木田独歩の「初恋」は、「さ」行に限らず全体的に残響がきつすぎて、愛聴・偏聴するには抵抗があるからだ。この点などを考えると、録音環境や録音機材、マイクと朗読者の配置といったあたりに原因を求められそうな気もしますね。
 ──先に挙げた国木田独歩はPodcastからダウンロードしたものである。斯様な理由で繰り返し聴くようなものでは(自分のなかでは)なくなっているが、Wis氏の朗読は無料で聴けるPodcastに良作が多いように感じられる。作品チョイスは比較的オーソドックスなものと映るが、それがなかなか確かな技術で読まれているものだから、多少の瑕疵はあったとしてもそこは目を瞑り、この人の声に導かれて近代文学の精華に接してゆきたい気になるのだ。
 これまで聴き得たWis氏の朗読のなかで、わたくしが最良と考えるのは、萩原朔太郎の「猫町」である。正直なところ、これまで何度聴き返したかわからぬ。Podcastもトップ25に含まれるなら、本作は鏡花にわずかに負ける再生回数を誇る、わがiPodに於けるベストセラーとなっていたことだろう。実は昨夜、前回の原稿を書いたあと寝るときに聴いていたのはこの「猫町」だったのである。
 正直に告白すれば、わたくしはこれまで「猫町」を就寝時に聴く際、最後まで聴き通したことが殆どない。<殆ど>というのもおこがましいか、記憶にある限りでは(確か)わずか1回ぐらいだったかな。呵々。これは6分割されてiTunesに保管(といえば良いのかな)されているのだが、第2回に入るかどうかというところで、いつも眠りの世界に引きずり込まれる。
 お陰で冒頭部分はとてもよく記憶できているのだが、途中の経緯や結末など相当うろ覚えだ。Podcastで初めて聴いたならば、如何様な物語であるか未だ不明なままであっただろう。聴くのもつまらなくなり、今頃はiPodから削除されていた可能性だって強い。幻想文学サイドから興味を抱き、江戸川乱歩や平井呈一に導かれて高校生の時分、古本屋で岩波文庫で発掘して以来、何度か買い換えながらもいまなお書架にあり続けている偏愛の一作であるから、途中で寝てしまうことが常と雖もなんら支障は感じないからまだ幸いというべきか……。
 これは実際にお聴きいただければわかることなのだが、昨日ご紹介した楠木華子同様、Wis氏も余計な感情を朗読に込めてこず、いたずらに演出に頼らぬ点が信頼の置ける人である。その優しげな語り口が、時に仇となっているような気がしないでもないが、それも朗読と作品を愛するがゆえの些細な瑕疵でしかあるまい。たとえば同じ作品で、Wis氏と他の人の朗読がそれぞれあるとする。その場合、勿論聞き比べはするけれど、ほぼ間違いなくWis氏に軍配を挙げることだろう。
 なお蛇足ながらWis氏の朗読では同じ萩原朔太郎「ウォーソン婦人の黒猫」と永井荷風『隅田川』、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と『グスコーブドリの伝記』もお奨めである。──個人的な希望を申せば、わたくしはこの人にエドガー・アラン・ポオの推理もの以外の短編と、の朗読をお願いしたい。この一文を書くにあたってホームページを見てきたが、どうやらこの作家の作品にはまだ手を付けたことがないようだ。ぜひの朗読を希望する。
 ──ここまで書いて、わたくしはiPodに取り込んだ朗読CDについてなにも語っていないことに気が付いた。おお、なんたること! が、ここでわたくしはニンマリと笑むことも忘れない。さよう、こんな言葉を堂々と書けるのだ。即ち、続く、と。◆

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