第1939日目 〈なにを怖がっているの?:『Rockin' for Love 』【椎名へきるレヴューブログ/「へきってみたら、こうなった」より】〉 [日々の思い・独り言]

 限界を超えることを恐れているような感じがした。椎名へきる13枚目のアルバム『Rockin' for Love 』を聴いて、そんな印象を抱く。
 表面的にはいつもと同じ元気印の椎名ワールド。しかし、不良となるよりもいい子ちゃんでいたい、良い評価を得たい、という意識が窺え、結果、なんとも言い難い──単純に感想すら述べるのにも頭を抱えてしまう始末。
 これまで椎名のCDを好きで聴いて来、それが長じてレヴューを書くようになって久しいが、こうまで迷わされた1枚はない。
 だが、これとて椎名が(彼女なりに)全力を傾け、愛情を注ぎ、スタッフと力を合わせて仕上げた作物であることに違いはない。珍しく既発シングルの収録率が低い1枚だが、それだからこそ、購って聴き耽る楽しみもあろう、というものだ。
 アルバム初出曲に絞って紹介させてもらえば、まず聴いてみるべきは以下の3曲──即ち、哀しみに閉じこもってダークな想念を玩ぶ「Again-腕の中へー」(⑥)、アイドル声優時代を彷彿とさせる可愛らしい「ラブリ♡タイム」(⑦)、未知の明日を恐れず新しい一歩を踏み出す「BRAND NEW GAME 」(⑪)。
 これで拒絶反応が出るようなら、その場で再生機からCDを取り出すべきだ。もしも興味が湧いたなら、1曲目から通しで再生すればよい。
 わたくしの印象を述べさせていただくなら、この『Rockin' for Love』は『PRECIOUS GARDEN』(2001)以来のクリアランス・セール的意味合いが強いディスク。在庫一斉処分──溜まった埃を払って、次の新作では新しい椎名へきるを見せるよ! ……という? これまでの活動に区切りをつけて、新しい一歩を踏み出すとでもいうのか。つまり、最後に収められた「BRAND NEW GAME」は自分への応援歌? なるほど、ならば本盤は聴いておいた方がいいアルバムだ。
 購入以来ずいぶんなローテーションで聴いているこのアルバム、鑑賞を重ねて思う──椎名へきるにはひょっとして〈進化〉とか〈発展〉という言葉は期待しなくてもいのではないか、と。
 或る意味に於いて、停滞したままヴァリエーションを紡ぐ方がよほど難しいことだから。言い換えれば彼女は、ヴァリエーションでそれなりに楽しませてくれる、稀有なる「エンターテイナー」である。──「アーティスト」ではなく? そう、「アーティスト」ではない、断じて。
 さて、──次作はどうなる? 相変わらず理想と現実が剥離した1枚になるのか? それとも、これまで虐げてきた人をも唸らせる、文字通りの代表作になるのか? そんなことを倩考えさせられる、椎名へきるには貴重な1枚。
 わたくしのようにディープ、かつ、出れば買う、という者でないのなら、余裕のあるときにでも手にされてみるとよい。そして、貴方なりの判断を下していただきたい。
 なお、初回限定版には毎度お馴染み、だけど一味違う300回記念ライヴのダイジェストDVD付き。初回盤と通常盤ではアナザー・ジャケット仕様になっていることも、言い添えておこう。◆

 2009年07月20日追記;椎名へきるは今年に入ってランティスへ移籍した。本『Rockin’for Love』はソニーレコードから発売された、最後のオリジナル・アルバムである。□

 SME/SRCL6487-88/2007/3,990円

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