第2440日目 〈『ザ・ライジング』第2章 37/38〉 [小説 ザ・ライジング]

 ハーモニーエンジェルスに入れるかどうかは別としても、それなりの票は入るのではないか。国民投票の始まる前はそんなことを考えていた。しかし、彼女の予想に反して、自分への投票はなかなかされず、インターネットへつなぐたびに見ても以前と同じ数字が表示されていることは、ままあった。そして、投票そのものが締め切られてすでに上位十人の発表が済んだいまとなっては、画面をどれだけ凝視しても、新たな評が加わることはあり得なかった。
 赤塚理恵に最後の一票が投じられたのは三日前の深夜だった。しかも自らそれを行った。自分に票が入れられることを初めて知ると、あと何回投票ボタンをクリックすれば、いまの惨めな状況から脱出できるかを、すばやく皮算用した。あと何万回クリックしなくてはならなかったとしても、赤塚は下から数えた方がはるかに早い得票を少しでも上の方へすることに執念を燃やした。勇んで挑戦した二回目の自己投票のときだった。サーバーは彼女のアクセスを、冷酷に拒否した。何度も自分へ投票を行おうと躍起になったが、結果はすべて同じ。挙げ句に不正なアクセスをしたとして、ネット環境を強制的に終了させられた。
 いまこの瞬間にも、あの二人の票はどんどん伸びていっている。なのに私は……。
 そう思うと両の目から涙がしとどにあふれた。自棄になって電源ボタンを押してパソコンを強制終了させると、キーボードを脇へ押しのけ、突っ伏して声を殺して泣いた。
 今夜、学園の理事長である祖父の自宅で催された恒例の夕食会も、とかく理由はつけられていたけれど、結局は残念パーティーでしかなかった。日頃は疎遠で自分の存在を疎ましく思っている親戚達が、一人を除いて食堂のテーブルに顔をそろえているのを見たときは、赤塚は思わず意識が遠くなりかかった。せめて……玲子おばさまがいてくれたら心強いのに。午前中に会ったときの台詞は本当だったようだ。心のどこかで、もしかしたら、と考えていたのはやはり無駄だったらしい。
 みんなが私を見て笑っている、と思った。それは被害妄想でもなんでもない。否定しがたい現実だった。彼等はいっているに違いない。
 理恵、君みたいに飢えたハイエナのような顔をしたやつが、アイドルになんかなれっこないだろう。せめてな、自分の身の丈にあった行動をするべきじゃないかね。君はまがりなりにもお祖父様の養子になっているわけで、一族の本家の人間なんだからさ。世間様に顔向けできなくなるような馬鹿げたことをするのはやめてくれよな。第一ね、お前は赤塚家の恥さらしなんだよ。子供のないのをいいことに兄さん夫婦に割って入ってきた妾の娘の分際で……。事故で兄さん夫婦も妾も死んでしまったのを、お祖父様のお情けで養子にしてもらったんだろう、その恩をどうして仇で返すような真似をするのかな。なあ、理恵、本当のことを教えてくれないか、兄さん夫婦とお前の母親が一緒に旅行へ行った理由と、それになんでお前がついていかなかったのか、を。もしかするとお前がその事故を仕組んだんじゃないのか? あの車がその日に限って調子が悪いのに、兄さん達がなぜそれに乗ったのか、なんでお前が見送ったのか。やっぱりお前があの三人を殺したのか!? ふん、お前ならやりかねないよな。莫大な遺産が転がりこんで、さぞかしうれしいだろう。気に喰わない相手でも、金の力で自分に跪かせることができるもんな。恥曝しッ! 人殺しッ!理恵、そんなお前が芸能人だって? へへへ、笑わせないでくれよ。まったく世も末だねえ。□

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