第2496日目 〈『ザ・ライジング』第4章 16/46〉 [小説 ザ・ライジング]

 抗うつもりであげた悲鳴にも似た声が、教師の唇でふさがれた。そのときのやわらかな感触が上野の、性欲という名の炎に油を注いだらしく、ボタンをはずす手を止めると、彼はブラウスの前をはだけさせた。床にボタンが散らばっていった。ブラウスの間から、希美の胸が半分ばかり見え隠れした。ブラジャーはやはり半分ほど、上にずれていた。上野が舌舐めずりして震える手でブラウスの前を広げた。希美はその様を正視できず、目をつむって顔をそらした。
 「すまん、深町。――わかってるよ。こんな状況でなくとも、俺とお前が恋人みたくなれるわけじゃない、ってことはね。ああ、そうさ、どれだけどん底に叩き落とされても、俺はあいつのことを愛してるもんな。お前を歯牙にかけることは、やっぱり抵抗があるよ。お前の気持ちだってよくわかってる。愛している相手に大切な処女は捧げたいよな。でもな、お前をこうしなきゃ、俺だって救われないんだよ」
 そういう上野の声が震えているのに希美は気がついた。そりゃあ先生には先生の悩みとか不安とかがあるのはわかるけど、そこから解放されるために私を犠牲にすることないじゃない。そういおうとしてみても、舌が動いてくれなかった。
 上野の手がスカートを払いのけ、ショーツに触れた。こんもりとした土手を撫でさすろうとして、彼の動きが止まった。どうして上野が触るのをやめたのか、希美にはその理由はわかっていた。途端、上野が希美を見やった。口許には下卑た笑みが貼りついていた。
 「もうずいぶんと濡れてるじゃないか。――いやらしいお汁でびちょびちょだぞ。どうなってるんだ。期待してるのか? それとも、愛しい恋人のことを考えてたら、いつの間にかこんなに濡れてきちまったのか?」
 涙を目蓋に溜めながら、希美は頭を振った。違うもん……そりゃ確かに正樹さんのことは考えてたけど、そんなのさっきだもん……あんたにされて濡れるわけないじゃない。
 「違うのか。そうか、なら確かめてみようかな」
 そう上野が言い終わるやいなや、希美のショーツは荒々しく脱がされた。やわらかそうな恥毛は薄く、その下にはまだ初々しい桜色をした秘肉が割れ目を覗かせている。
 股間に上野が顔を埋めた。穢らわしい気分はより大きくなっていった。かさつく指に恥毛が絡み、割れ目をなぞってゆき、秘肉を押し広げられ、濡れそぼった希美の膣に指が侵入した。中の襞という襞が痙攣し、壺は再びじっとりとした潤いを加えている。割れ目の頂にあって包皮から顔を出した突起に指が触れた。彼の息がそこにかかり、舌がそれを転がした。不覚にも、希美の口から(初めて)喘ぎ声がもれた。それは理性よりも本能が勝った瞬間でもあった。陵辱者が顔をあげて、にたにたと笑っているのが察せられた。その口のまわりは、希美の膣内からしとどにあふれてくる透明な愛液にまみれている。
 「気持ちよくなってきたようだな。こんなになってきているじゃないか」
 そういって上野がまた膣に指を、今度は二本。自分の中で異質なものが蠢いているのが感じられる。ゆっくりと円を描くように動いている。それはしばしの後に去った。上野が、ほら、といいながら、希美にそれを見るよう促した。指の間にねばっこい糸が幾条もあった。嗚咽をもらしながら、希美は顔を背けた。
 「体は正直だよ、深町」と上野が溜め息をつきながらいった。「悪いが、もう入れさせてもらうよ」
 希美は上野を見あげた。そういう彼の目の際に涙が溜まっているのが見て取れた。
 割れ目が広げられ、上野の怒張がためらいがちに挿入されてきた。それを希美はもうなんの感慨もなく迎え入れた。うつろな眼差しで、自分の上で遮二無二暴れる上野を、ただじっと見つめているばかりだった。
 刹那、希美の脳裏に母の顔が、ついで父の顔が浮かんだ。それがどんな表情で自分を見ているのかはわからない。涙でひどくぼんやりとかすんでいて、そこまで見ることはできなかった。なんとなく、哀しげな表情でいるのかな、と思う程度だ。親友達の顔も、浮かんでは消えてゆく。いまとなってはとても遠くに感じられる存在のように思えた。最後に白井の姿が立ち現れたが、それは瞬く間に散り散りとなって消えていった。
 いまになってようやく、涙が滂沱とあふれてきた。悔しさや恐怖に混じって、自分に対して抱いた情けなさもがこもった涙だった。
 扉がそっと開き、部室の中に誰かが入ってきた。自分と同じ色の上履きを履いている。見るともなしにその生徒を見あげた。思った通りの人物だったことに、むしろ安心を覚えた。
 赤塚理恵がヴィデオ・カメラをまわしながら、レンズを自分と上野に向けている。上野がそれに気づいているかどうか、それはわからない。だが、彼女がいることを、彼は不思議に思わないだろう。先生をそそのかしたのが何人いるのか知らないけれど、その中の一人が赤塚理恵であることは間違いない。
 そうか、上野先生、この人に弱みを握られたかなにかして、いいなりになるしかなかったんだね。でも、……実行しなくたっていいじゃない! 私の処女、返してよ。
 はあ、と希美は溜め息をついた。
 パパ……、ママ……、なんで助けてくれなかったの? 約束してくれたじゃない……。
 正樹さん……、ごめんなさい。約束、破っちゃった。こんなことになるなら、安手のロマンス小説のヒロイン気取りで貞操を守ったりしないで、欲情したとき素直に抱かれてればよかった……。嗚呼、変に操を立てた結果がこれか。
 ぐったりした体を部室の床に横たえながら、上野が自分の中で果て、赤塚が視界から消えるのを、希美はずうっと待った。それはとてつもなく長い時間に感じられた。□

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