第2495日目 〈『ザ・ライジング』第4章 15/46〉 [小説 ザ・ライジング]

 「でもな、俺がお前のことが好きだったっていうのは本当さ。レイプみたくなっちまってすまんが、こんなチャンスを作ってくれた奴らには感謝してるんだ」と上野がいった。こみあげてくる笑いを抑えられないような口調だった。「あの教育実習生と付き合ってるのは聞いてるよ。でも、お前を傷物にすれば俺の人生は安泰なんだ。深町、頼む、俺と彼女を助けてくれ」
 希美は上野の言葉を聞き流しながら、身をよじらせて彼から逃れようとした。すると上野はやおら立ちあがって希美の手首を掴み、有無をいわせず、整然と並べられた椅子の間を縫って、椅子と向かい合うように置かれた指揮台の前まで引きずっていった。途中で希美の指は何脚もの椅子の足に触れたが、摑む間もなく離れていった。
 いつもなら決して見ることのない角度から部室を眺めているうち、希美の両眼にとめどなく涙があふれてきた。なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう。なんで、よりによって私なのよ……?
 上野が手を離した。希美は肩で息をついていた。逃げ出そうとする気力は残っているらしく、ときどき腕と足が匍匐前進するみたく交互に投げ出されるが、それだけの体力が残っていないようだ。ほんの数十センチ、現在位置から移動しただけだった。希美の傍らにしゃがみこんだ上野が、希美の上半身を起こさせ、制服の上から乳房をもみし抱いた。
 希美の耳たぶに舌が這わされてゆく。ねっとりとした感触が怖気をいや増させた。何度も自分の胸を揉む上野の手をふりほどこうとしたが、そのたびになぎ払われ、より強くまさぐられるばかりだった。
 上着のボタンをすばやい手つきではずされてゆき、脱がされるのにも抵抗を試みたが、自分より圧倒的に力が勝る大人の男に勝てようはずはなかった。それでもなんとか上野の手をふりほどき(一瞬ながら自分の掌で自分の乳房に触れることとなった。気がつかないうちにブラジャーがずらされていたのに希美は唖然とした)、絨毯をひっかいて前のめりの格好で、未だ固く閉ざされた扉へ向かって走り出そうとした。が、数歩のところで足首を摑まれ、そのまま前につんのめって、顎と頬をしたたかにぶつけた。
 乱れた息でおそるおそる後ろを見やると、上野が仁王立ちして、顔には好色な笑みを浮かべて希美を見おろしていた。怒張が反り返っているのも見えた。上野の視線が、一ヶ所に固定されている。希美はその先を追った。転んだ拍子にスカートがまくれ、いまはライムグリーンのショーツが露わになっていた。小振りながら形のいい希美の尻を目の前にして、上野の怒張がぴくりと反応した。角度はさらに増したように見える。
 希美の視界いっぱいに上野の姿が映った。陵辱者は言葉と裏腹に、自分を嬲り者にすることを楽しみにしているようだ。逃げようとしても、目の前で迫ってくる怒張の不気味さに気圧されて、足がすくんで動けない。やがて、相手の息が首筋にはっきりと感じられるぐらい、顧問代理は自分に迫ってきた。幾ばくもなく、手足をはがいじめされて、身動きできなくなってしまうだろう。そうなったら、あとは慰み者になるよりなく、逃げることなぞ夢物語になってしまう。
 希美はわずかの力を頼みに上野の脛を蹴飛ばし、身をよじらせて彼の下から脱出すると、一目散に扉へ駆け寄った。が、後ろから伸びてきた腕に手首と脇腹を押さえられてしまった。彼女の体はさっきいたあたりに放り投げられた。後頭部と背中に痛みが走り、顔をしかめた。しびれにも似た痛みだった。
 希美は身動きすることもできないまま、涙のために視界がぼやけた目で迫り来る上野をみていた。のしかかってくるのを払いのける体力ももうなかった。いまはただ、されるがまま。上野がベストのボタンを手慣れた仕草ではずしてゆき、リボンのホックを取り、ブラウスを脱がせにかかった。ときどき、自分の名前が呼ばれているが、返事するつもりもなかった。
 「おとなしくしていれば、あっという間に終わっちゃうよ」と上野の声が、遠くの方から聞こえてくる。□

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