第2916日目 〈池上彰『〈わかりやすさ〉の勉強法』を読みました。〉 [日々の思い・独り言]

 「今回の本は」と池上彰は『〈わかりやすさ〉の勉強法』の「はじめに」でいう。「「わかりやすさを考える」三部作の最終巻であり、「具体的な勉強法」編です」と。続けて、「私自身が、自覚しないまま日頃から実践してきたことを、「自分はどうやっているんだっけ」と自問自答しながら、まとめてみました」(いずれもP4)とも。
 有り体にいうなら本書は<三部作プラス・ワン>のエッセンスが詰まった1冊であり、現代日本屈指のニュース解説者であり、またとない<知>の啓蒙役、池上彰の頭ン中が窺える1冊なのだ。
 本書は大きく分けて、次の大項目によって成立している。①プレゼンのテクニック、②新聞・書籍・ネットの読み方使いこなし方、③情報のインプットとアウトプット、④聞き上手と伝え上手、⑤細切れ時間の使い方。
 この内、②は本稿では扱わない。佐藤優と対談した『僕らが毎日やっている最強の読み方』(東洋経済 2016/12)でより具体的に、より説得力を持って語られているからだ。こちらについては読了後、感想文を認める予定でいる。
 上記項目のうち、わたくしが最も感銘を受けたのは、①プレゼンのテクニック、である。おそらくいまの自分の仕事に結びつくところ大だからだろう。
 『ザ・ベストハウス123』というプレゼン番組に出演していたときを顧みての話だ。タレントや芸能人たちのプレゼンを見ていて気附いた、上手であったり面白かったプレゼンの要素が3つ(3の魔法!)、紹介されている。
 第一に、「予習している」こと。
 与えられた台本をただ読んでいるだけだとツッコミや質問があっても即応できない場合がある。が、「きちんと予習をしているタレントは、台本を覚えるだけでなくて、「これはどうしてだろう」と自分なりに素朴な疑問を持って調べてきています。そうすると、ほかの出演者からの質問にも「それはですね……」と答えられます。ディレクターがあらかじめ台本に書いておいた以上のことを聞かれても、自分の言葉で返せるのです」(P20)と指摘する。
 第二に、「話をうまく一般論にして、よいキーワードを見附ける」こと。
 不時着した旅客機からの生還劇をプレゼンした俳優が、乗員乗客が互いに助け合った様子に触れて、こうした人々の助け合いを「ヒューマン・チェーン」というキーワードを用いて表現した。
 ありきたりなプレゼンにならないためには、「ここから実は言えることがありまして」と一般論に持ってゆくと同時に、「さらにそこでVTRになかったキーワードを提示することができれば、とても効果的です。/このようなときのキーワードは、まったく新しい言葉ではなくて、聞いたら意味がわかるぐらいの、親しみの持てる言葉の方がいいのです。その意味でも「ヒューマン・チェーン」はちょうどよく効いていました」(P22)
 人は耳で聴いただけですぐ理解できるようなわかりやすく、単純で、かつレトリックの効いたフレーズを好み、そのフレーズを駆使する人間を支持する。池上さんは番組でプレゼンした俳優の名を挙げて書いているが、もう1人、脳裏に描いていた人物がいなかったか。わたくしはこの件を読んで、すぐにその人のことを連想した。
 <自民党をぶっ壊す>、<聖域なき構造改革>、<改革の”痛み”>、<恐れず怯まず捉われず>、など記憶に残るフレーズを効果的に用いて空前の支持率と人気を誇り、<ワイドショー内閣>とメディアにあだ名された時の自民党総裁、第89代内閣総理大臣、小泉純一郎の姿が。思えば小泉元首相は日本憲政史上最強のプレゼンターであったかもしれない。この件についてはもうすこし、視点を変えるなどして考察してみたい。
 閑話休題。
 第三に、「焦点の合わせ方が上手い」こと。
 先の生還劇といい洗脳といい、聞いただけでは他人事、絵空事、遠い世界の出来事だが、私たちの身にもいつ同様なことが降りかかっても可笑しくない、と認識させられれば自ずと聞く側の姿勢も改まるというものだ。それを実現させるのが、如何に聞き手の立場に焦点を合わせてゆくか、ということだ。
 「何について触れたら相手に興味を持ってもらえるか、どういう話なら相手の身に置き換えられるかということを見つけるのが、大事なポイントなのです」(P24)
 これは最早プレゼン云々の話ではなく会話術の域に達している。考えてみれば誰彼との会話って基本的にセルフ・プレゼンだものね。セルフ・プレゼンが上手くいかないと、場合によっては生き残れない。見えない人間(Invisible man)になりかねない。
 (デートだったら目も当てられない結果になるよ、好きな人相手にしどろもどろなんて可愛いとかウブとかではなく、ただ単に頼りなく、楽しくない。楽しくないとは笑顔が一度も生まれないことを意味する。みくらさんさんか、退勤直前の約3・5時間前、提案していた食事の誘いを断られた(退勤直前、っていうところがミソだ。話が蒸し返されようもないタイミングだしな)が、これ幸いと自分磨きに次の誘いの実現までの時間を費やすつもりだ。相手の話を聞くことも勿論だが、楽しい時間を過ごせるよう自分を、相手をプレゼンするためのスキルを磨こう。)
 池上さんもこのことに触れて、「よくテレビ画面でお目にかかる人は、それなりのプレゼン能力の達人ばかり」(P25)と述べている。だからこそ、この直後に引かれた島田紳助が池上さんにいった台詞が重みを増してくる。曰く、「いつも勉強しているタレントだけが、テレビの世界で生きていけるんですよ」(同)と。
 タレントだけではない。会社員だってそうなんだよ。自らを向上させる意欲を持ち続け、目指すところに向かって努力を続けられる人間だけが<1つ上の舞台>に足を踏み入れて、これまで誰も見たことがないような世界を眺めることができるのだ。
 某アイドル・アニメ劇場版のサブ・タイトルではないけれど、勉強する人間だけが<輝きの向こう側へ>行くことができるのだ。◆

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