第3079日目 〈雨だれを聞きながら、新約聖書の一節について考える。〉 [日々の思い・独り言]

 旧約聖書が罪を繰り返す人間への戒めの書物とすれば、新約聖書は御子によって示された福音を期待する書物、といえるように思います。
 新約聖書についてもうすこし補語するならば、福音を期待する心が正しい道から外れぬようあるための理を説き続ける書物であり、ユダヤからローマへ伝道されてゆく過程を大まかに伝えた福音伝播の書物であるでしょう。
 とまれ、旧約聖書にも新約聖書にも共通するのは根底にあるのは、<希望と信仰と愛>であります。これは〈パウロ書簡〉の一、「コリントの信徒への手紙 一」に出る有名な一節ですが、聖書全巻を読了して振り返ってみればこのフレーズが、あたかもライトモティーフのように現れてくることに気附かされます。
 パウロは顕現したイエスによって使徒に任命された人物、かれなくして今日われらが知るようなキリスト教の広がりと永続は見られなかったでしょう。むかしの名をサウロという使徒パウロは初期キリスト教会最大の伝道者でありました。
 そのパウロが同じ「コリントの信徒への手紙 一」で結婚について、ミもフタもないことをいうております。曰く、「自分を抑制できなければ結婚しなさい。情欲に身を焦がすよりは、結婚した方がましだからです」(一コリ7:9)と。姦淫の罪を犯して裁かれるぐらいならその場のノリで構わないんで異性を見繕い、さっさと婚姻した方がいいっすよ、という意味です。
 なんだかなあ、とぼやきたくなります。これが書かれた当時、パウロは独身だったのでこのような書き方になったことは、容易に推測が立つ。パウロの女性観がどのようなものであったのか、正直なところ知る気はありません。かれが「希望と信仰と愛、このなかで最も偉大で最後に残るのは<愛>です」と述べるときの<愛>とは、ユダヤの神へ向けられたものである以上にメシアたるキリストへささげられる<愛>であることを、忘れてはならないでしょう。
 結婚に関していちばん真っ当で、現代人の心奥にストンと落ちるのは、「マルコによる福音書」にある言葉でしょう。曰く、──
 「天地創造の初めから、神は人を男と女とにお造りになった。それゆえ、人は父母を離れてその妻と結ばれ、二人は一体となる。だから二人はもはや別々ではなく、一体である。従って、神が結び合わせてくださったものを、人は離してはならない。」(マコ10:6-9)
──と。
 照れながらお話しすれば、いまの自分にはこの言葉がたいへん快く響くのであります。非キリスト者であっても<縁>によって結ばれて誓いを立てた者らを、第三者は如何なる理由、如何なる感情、如何なる思惑があろうとけっして引き離そうとしたり、壊そうとすることは、実行することも含めて許されたりはしません。思いあたるフシあるやましき者はただちに悔い改めよ。そうすれば、斯様な死の罰に値する者たちが示した罪からの改心に寛容になりましょう(知12:19-20)。
 結婚といえば先日読んだカーター元米大統領の著書に、非常に印象的な一節がありました。長くなりますが2箇所を引用して筆を擱きます。曰く、──
 「結婚とは日々歳々の多くの些細な事柄の積み重ねである。それらが結婚生活を壊すこともできれば、成功させることもできる。コミュニケーションの能力は最も重要である。ほとんどの結婚生活において、同じ出来事も夫と妻では違った視点で見ている。その夫婦が自分の考えを正直に、またお互いを尊重しながら話すことさえできれば(これはとても大切な前提である)、大部分の問題は避けられるだろう。
 過ちを犯すことがあるのは当然だから、そんな時は進んで赦す心も必要だ。怒ることもあるし、時にはわざと傷つけるような言葉を投げかけることもあるだろう。だからこそ、相手を理解しようとする心や柔軟な対応が求められる。そして危機に直面した時は、夫婦関係とは永遠のものだという信念に堅く立つことがとても大切だ。ロザリンと私にとっては結婚の誓いをたてたことが、二人の関係を安定させる大きな力となった。私たち夫婦は、誓約とは破ってはならないものだと考えているので、今に至るこの五十年間、お互いの違いを乗り越えて来られたのだと思う。」(『信じること働くこと ジミー・カーター自伝』P86-87 瀬戸毅義・訳 新教出版社 2003/08)
──と。また曰く、──
 「(私とロザリン)二人の関心は異なっていたし、互いに不完全な人間であって過ちを犯すことがあり、解決できない意見の相違もあったが、結婚生活を通じていつも愛によって私たちはそれに打ち勝ってきた。」(同P81)
──とも。
 われらも不完全で、これまでの長い時間のなかで喧嘩もし、赦し合ってきた。互いに相手を信頼し、尊敬し、守り、慈しみ、そうしていつも隣にいて、愛してきた。二人でたまに聖書を繙いて、そこに書かれた文言からなにかを汲み取り、それについて意見を交わすことがこれからもできたらいいな、と思います。なによりも彼女がわたくしの遺伝子を次の時代に残してくれることが嬉しいです。◆



信じること働くこと―ジミー・カーター自伝

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