第3163日目 〈旅に出たい。〉 [日々の思い・独り言]

 良い旅行記を読んでいると、ふらりと旅に出たくなります。おそらくこの30年でいちばん多くの人を旅空の下へ送り出した旅行記は、沢木耕太郎『深夜特急』ではなかったでしょうか。蔵前仁一の『ゴー・ゴー・アジア』や『旅で眠りたい』、さいとう夫婦の『バックパッカー・パラダイス』に代表されるバックパッカーの旅を綴った著書も、人々の旅心を刺激したはずです。
 20代の頃にバイトしていた大学生協のプレイガイドに一人の男がいた。同い年で、お金を貯めては旅に出て、2カ月ぐらいふらふらとアジアのどこかを彷徨い歩き、たくさんの世界を見てきた男だ。行く先々でトラブルに見舞われ、或るときはA型肝炎をもらって帰国し、或るときはあわや戦闘に巻きこまれかけて、命からがら逃げ出した。クルディスタン地域が激しい内戦を経験していたときに、その地域をうろうろしていたという経歴の持ち主である。
 そんなかれが帰国のたびに読み耽り、地図帳を眺めながら次の旅行先を決める一助を担ったのが、前述したようなバックパッカーの行動を記録した作品群だったのであります。
 わたくしもそうした本を読んで刺激を受け、海の向こう側の世界を覗いてみたいと望んだ1人でしたが、うぅむ、性格ゆえだろう、バックパッカーになって旅空の下を彷徨うなんてことはできませんでした。海外だってそうたいした数は行っていません……イギリスとフランスと、スウェーデンとアイスランドと、ヴェトナムと、ぐらい、か。専らわたくしは国内専門であります。
 先日、田村隆一の書いた『詩人の旅』という文庫(中公文庫 1991/08 現在は増補新版があり)を伊勢佐木モールのずっと奥にある古本屋の店頭見切り棚で見附けて買いこみ、近くの喫茶店で小一時間ばかりコーヒーをお代わりしながら読んでいました。目当ては冒頭の「隠岐」と「伊那」、「佐久」。隠岐は20代の頃に研究のために訪れようとして以来なんだかだで未だいちども足を踏み入れていない憧憬の地、伊那はわかい頃出掛けたフィールドワークの帰りに立ち寄って良い思い出を刻んだ、佐久と小諸は文字に起こしがたい気持ちをそこに抱く場所でありまして、或る種の懐かしさを持った所でありました。
 新型コロナウィルスの感染者数は、ワクチン接種が全国津々浦々老若男女に対して順調に行われたせいでか、一部で小さな混乱を引き起こしたりしたこともあると雖も徐々に減少傾向にあり、現在発令中の緊急事態宣言は予定通り今月30日で終わり、蔓延防止措置へ移行することが決まりました。それでもなお未だわれらは自由に都道府県県境を越えて遊びに出掛けることに制限を加えられている。
 ふとした瞬間に湧きあがる旅心、はやる気持ちをいまは抑えて我慢の時。やがて以前のように気兼ねなく、マスクなしで旅行を楽しめる日が来ると信じています。その日の訪れを待っています。
 それまでおとなしく、旅行記を読んでまだ見ぬ地に憧れ、紙上の旅計画を練って慰めるとしましょう。……さて、どこに行こうかな。◆


詩人の旅 (中公文庫)

詩人の旅 (中公文庫)

  • 作者: 田村 隆一
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 2021/09/27
  • メディア: 文庫



詩人の旅-増補新版 (中公文庫)

詩人の旅-増補新版 (中公文庫)

  • 作者: 田村 隆一
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2019/10/18
  • メディア: 文庫




共通テーマ:日記・雑感

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。