第3503日目 〈ロシア人の伝記を抵抗なく読むための、と或る1つのありきたりな方法。〉 [日々の思い・独り言]

 ロシア人の回想録や自伝、ロシア現代史やロマノフ朝史など読んだり目通ししていると時々、心から「良かった」と思う瞬間に襲われることしばしばであります。英米のシンプルさに馴れた身には馴染みにくく覚えにくい、あの、長ったらしい人名への抗体ができているからの感慨でした。
 抗体ができている──その理由は、ドストエフスキーをはじめとするロシア文学に馴染んだためでありましょう。質より量をこなした結果、ともいえると思います。
 とはいえ、ドストエフスキーを読み始めてから、どれだけ経ってのことか覚えておりませんが、やはり人名に難渋して、出てくる固有名詞についていまいちピンとこない部分もあって、なにかそのあたりを手っ取り早く教えてくれる便利でわかりやすく、安価な本はないかなぁ、と新宿の紀伊國屋書店をブラついておりましたら、そんな都合の良い希望に応えてくれる1冊を見出したことで、最後まで残っていた人名や固有名詞への苦手意識は霧消したのでした。
 同じ人を指しているのになんでこんな風に呼び方が変わるんやろうか。夫婦や親子だったりするのにどうして姓が微妙に異なっているんかな。サモワールとかザクースカってどんなものじゃろうか。──そんな疑問が、読んでいて度々浮かぶものの放置を続けたある日、やっぱりちゃんと疑問を解決しておこう、と思い立って、前段のような次第になったのであります。その頃は奥方様ともそんな深い関係になってなかったからなぁ。そんな風になっていたら直接彼女に訊いたのですが……そもそもまだロシア赴任をしていないんですよね。
 斯様な疑問を解決してくれたのが、桃井富範『すらすら読めるドストエフスキー』(彩図社 2009/07)でした。これを読んで、就中姓に関しては合点がいった。ドストエフスキーの小説を検めてみたら、ここに書かれている姓の表記についてことごとく納得できましたよ。成る程、と膝を叩いた姿を想像してください。
 つまり、ロシア人の名前の法則をこの本で知ったわけです。「名前+父称+姓」でロシア人の名前は成り立っており、「父称」と「姓」は男性と女性とで法則が異なり、加えて関係性によって呼び方が違ってくる、という複雑さも一旦知ってしまえば、むろん時に迷うことありと雖も読むに際してさしたる支障はない。いや、この本がなかったら自分の苦手意識が解消されることも、、抗体ができるなんてことも、決してなかったでありましょう。
 わたくしが当時からいまに至るまで読んできたロシア文学なんて氷山の一角どころか欠片に過ぎませんが、現代ロシア文学となるとトンと手が伸びません。いちばん時代がくだって、ソルジェニーツィンなのですから、容易にご想像できる方も居られるやもしれません。なにが話したいか、というと、それでも──断続的ながら読み続けていたせいか、いつの間にやら地名や党組織各部会の名称にも免疫ができてしまっていました。
 この、いつの間にやら免疫ができていた、というのは、心強い武器になった。人名や固有名詞に抵抗がないことは外国で書かれた、殊にノンフィクションを読む際は心理的負担を下げるばかりでなく、読むスピードが維持できたり、背後関係に推理を及ばせることも容易になる、と自身の経験で実感しております。こうした何物にも代え難い「武器」があるからです。
 それでも、例えば自伝や回想録を読んでいると、1人の人物が名前+父称或いは姓のみで呼ばれたりして、混乱してしまうのは事実であります──わたくしは勝手にそれを、1ページに幾人もの人物が登場するがゆえの弊害、と言い訳しておりますが、政治家の自伝などではそれも致し方ないところでもありましょう。それが、ゴルバチョフのような国家元首にまで上りつめた人のそれであれば、尚更かもしれません。
 そのゴルバチョフ自伝、未だに読んでいるのですが(ようやくゴルビーが共産党書記長になった! いまはペレストロイカの理念を語った章)、人名に関してはまさに名前+父称或いは姓のみで書かれている。訳者の副島氏が括弧で補足してくれていなければ、まだわれらがミーシャはスタブロボリ地方のコムソモールで仕事をしていたかもしれません。
 とまれ、わたくしがゴルバチョフ自伝やプーチン、ゼレンスキーの伝記、或いはロシア現代史の本を読んでいて、長ったらしい人名や馴染みのない土地の名前にさしたる抵抗など感じることなく(曲がりなりにも)読み進められているのは、ゴーゴリやドストエフスキー、チェーホフやガルシン、レスコフやショーロホフ、ソルジェニーツィンなどロシア文学で馴らされて、免疫が付いたからであるのは事実であります。
 これからロシア人の伝記や史書──ノンフィクションを読む人は、普段あまり接しない国の人名や地名など固有名詞に馴れる目的で、ロシア文学の何冊か(叶うことなら長編を)に目を通しておくと、より抵抗感なくそうしたジャンルの本を読んでゆくことができて、良いと思います。◆

共通テーマ:日記・雑感

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。