第3567日目 〈有隣堂ランドマークプラザ店のこと。〉 [日々の思い・独り言]

 書棚の整理をしているとなつかしい本や雑誌に再会すること多く、その度手が止まってしばし懐旧の想いに浸りながらページを繰ってしまうのは、「畜本家あるある」かもしれません。
 今日も今日とて雑誌やムックなど大判書籍を詰めこんだ棚を点検していたら、1994(平成6)年7月発行の雑誌『Executive』が挟まっているのを見附けた。薄手の雑誌のせいであまり自己主張することなくひっそりとそこに在り続けた。巻頭のワイド特集は「本の大冒険」。
 塀のなかの読書を振り返る安部譲二や書評家井家上隆幸の読書術、猪狩春男や内藤陳のオススメ本などの記事が埋まるが、或る意味で出色なのは冒頭、石垣島を舞台にした荒俣宏の「耽・溺・読・書 本を10冊ぶら下げて野生の島・石垣へ」だ。
 なぜ? 取りあげられるのは南洋の航海記やフィールドワークのレポート、海生生物の本など荒俣らしいセレクトで、その意味ではさして目新しい切り口ではない。わたくしが出色というたのはもっと下世話なお話で、ビキニショーツをはいた荒俣の写真に当時とてつもない衝撃を受けたことをしっかりと覚えているから、というだけの話に過ぎない。
 それでは本題。
 雑誌のなか程に、各ジャンルで秀でた特徴を持つ首都圏の書店を紹介するコラムがある。題して、「本棚探検隊スペシャル あの書店のこの棚を狙え!」という。『Executive』連載記事の特別版である由。歴史であれば渋谷・大盛堂書店、今週の新刊であれば銀座・教文館、女性本であれば青山のラ・リヴィエール流水書房、コミックであれば吉祥寺のBOOKSルー・エ、という具合だ。
 紹介された書店にはなつかしい場所が多い。それらの過半が既に営業を終了しているか統合合併、社名変更で往時の──雑誌紹介当時の──面影を失っているのが淋しい限りだ。
 なかでも一際その感を強く抱くのが、洋書であれば、と紹介された有隣堂ランドマークプラザ店である。同誌で紹介された店舗でここ程自分がなつかしく思い、いまでもその閉店を惜しむ店は他にない。

 とにかく、贅沢な書店である。間口は前面ガラス張り、棚と棚の間の通路もたっぷりスペースをとってあり、何よりも店が見やすいのが嬉しい。……売り場面積三〇〇坪のうち約半分の一二〇坪が洋書売り場。……「東京に行かなくても洋書の買える店」(岡井店長)を目指し、現在は英語を中心に常備二万冊、洋雑誌約五〇〇誌と首都圏では丸善、紀伊國屋に迫る品揃えを誇る。(P56)

 そう、この店舗が洋書に力を入れている間、わたくしは東京で、古書を除けば洋書を購入したことはなかった。注文すれば取り寄せもしてくれたしね。
 この書店で洋書のお世話になったいちばん最初の記憶に残っているのは、大学の英文学か英詩のレポートを書いているときだった。スイスの湖の呼称が日本語で馴れ親しんだ湖の呼称とは異なっているが、文脈から両者はイコールとしか思えぬが、湖沼地帯の湖の一つゆえもしかしたら別々の湖かもしれない。そんな疑念を晴らす根拠はなかった。
 どうしよう? 思い余ってわたくしは冬の夕方、家を出て有隣堂ランドマークプラザ店のあるみなとみらい地区までてくてく歩いていったのだ。そうしてスイスの、能う限り詳細な地図を苦労して見附け出して、疑念を晴らしたのである。インターネットが普及する前夜のことだ。もっとも、その時点でインターネットが家庭に入りこんでいても、サービス提供されて間もないGoogle Mapがどれだけ精確か、全面的に依拠などできなかっただろうけれど。
 お陰様でレポートは無事に書きあげられた。爾来、この店舗には随分とお世話になった。そごう横浜店の紀伊國屋洋書コーナーと併せて、雑誌もペーパーバックもハードカバーも、どれだけ買ったのかな。いまでも覚えている有隣堂ランドマークプラザ店での買い物は、ケンブリッジ大学から出ていた英国の民話や童話を集めた400ページ程の、挿し絵の入ったハードカバーだった。手許にいまでもあれば書名など正しく引けるが、如何せん、”あの日”に失ってしまいました。
 で、この有隣堂ランドマークプラザ店だけれど、もともと伊勢佐木モールの有隣堂本店の──何階だった、3階あたりか? フロアの奥の方が洋書コーナーになっていたのが、閉鎖に伴って新しく開設したランドマークプラザへ有隣堂が出店する際、洋書を中核にするてふコンセプトができあがったと思しい。
 そのなつかしいお店も、いまはない。幾度か、和書と洋書と文具の比率を変えつつ、2006年のリニューアルを経て有隣堂ランドマークプラザ店は、2009年07月に閉店した。1993年07月、ランドマークプラザのオープンから丸16年の営業であった。その後、ここにはくまざわ書店が出店して大いに気を吐いていたけれど閉店、翌年02月に現在の2階へ場所を移して再オープンした。
 しかし、なんで横浜ってこうも喫茶店や書店が根附かない土地なんやろ。横浜の文化レヴェルは音楽以外は低いよ。生まれ育った町だから苦言を呈すけれどさ。未来はなくなったのかなぁ、この港町・横浜には。◆

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