第3624日目 〈希望の同盟。──或る夫婦に。〉 [日々の思い・独り言]

 “a Combination of Hope.”
 夫婦間の信頼関係を、わたくしは「希望の同盟」と呼びましょう。

 ──2015年4月29日でした。訪米中の安倍元首相は、アメリカ議会上下両院合同会議にて、「希望の同盟」”an Alliance of Hope.”と別に称される、約46分にわたる演説を行いました。
 わたくしのこの原稿のタイトルはそれに倣うものですが、変更を加えた部分がございます。安倍元首相の演説は”an Alliance of Hope.”ですが、わたくしの方は"a Combination of Hope.”であります。
 ”Alliance”ではなく、”Combination”。
 日本語に訳せばどちらも「同盟」なのに、なぜ変えたのか。”Alliance”が「国家間の同盟」を専ら指すのに対して、”Combination”は「個人間の同盟」という意味合いを強く、濃く持つからであります。
 夫婦間の絆、連帯を同盟と呼ぶならば、それを英語にするならば、”a Combination of Hope.”とするのが最も相応しくあるのは、自ずと明らかでしょう。

 このお話を進めるにあたり、わたくしのよく知る一組の夫婦を挙げましょう。許可は頂いております。
 かれらの出逢いは、いまから23年前に遡ります。初めて顔を合わせた或る秋の日の昼下がり、当時まだ中学生だった夫人は、「この人とはまだ先がある、この先での関わり合いがある」と感じたそうであります。それがどのような形を取るにせよ、未来で関わることがある、と感じたというのであります。
 一方で夫はといえば、その可愛らしさに一目で心奪われた、と、そっぽを向いて話してくれましたが、未来についての予感はなかった、と言い張っています。まァ、われらがその場に立ち合っていないのですから、口では幾らでも言いつくろえますよね。
 以後かれらは、その3年後、そのまた4年後に再会します。2度目の再会は東京駅からも程近い、と或る文化施設でした。かれらの間に紐帯と呼ぶべきものが結ばれたのは、このときのことでありました。当事者たちの証言です、疑う必要もないでしょう。
 しかしながら次の証言は疑わざるを得ません。といいますのも、恋人なんて間柄じゃなかった、とかれらは口を揃えるのであります。──誰もこれを信じません。本人たちはどう思っているにせよ、傍目にはそのようにしか映らなかったからであります。
 ──そこでお二人が頭を振って否定していますが、その光景は視界の外に置いておきましょう。

 2度目の再会から入籍までの長い歳月は、幾つもの試練をかれらに浴びせました。夫人が外国勤務が多かったことから生じた、国境と海洋を隔てた遠距離恋愛ばかりではありません。
 赴任国の政争、内政悪化のために、無事の帰国がかなうかわからない事態に陥ったこともあったそうです。そんなとき未来の夫は、生命の危機にさらされた夫人を心配するあまり、単身日本海を渡りました。夜中に、東京から北陸まで、レンタカーを運転させられたわたくしは、助手席に坐るかれの狼狽を目の当たりにし、八つ当たりまでされております(笑)。
 夫は夫で、難聴や同時多発テロのPTSDに苦しめられながらも、会社の無理解に悩まされながらも、職務を、能う範囲で全うした。当然、そのような嘲笑や誹謗に耐えかねて心折れることもあったでしょう、その都度、未来の夫人が献身的に支えて、慰めたり、一緒に憤ったりする様子を目撃しております。
 また、かれは、途中、夫人から心を離してしまう痛ましい事件を自ら引き起こしたこともありました。が、相手の軽挙妄言が現実に引き戻した。そんなときでもそばに居続けた夫人の愛が、かれに正しい未来を選択させたのです。
 この二人が結ばれるべくして出逢い、即かず離れずの関係を20年以上も続けてきたのは、正しい未来をこのタイミングで、双方に自覚させる為だったのかもしれません。
 斯様なまでに、様々な問題が二人の前に立ちはだかりました。しかし共にこれらの多くに取り組み、解決してきました。困難を乗り越える毎にかれらの絆は強くなった。鋼のように堅く絹のように柔らかい絆を育んでいったのです。

 彼女が夫に与えたもの、それは、希望です。
 彼女はかれを、汚濁末法の世界とそこでの後遺症から救い出して、その後の人生を本当の光で照らしてくれた。かれ自身の言葉です──「失望に沈み、裏切りを後ろめたく思う自分に、妻が差し伸べてくれた手のあたたかさは忘れられない」
 ──繰り返します。かれに彼女が与えたもの、それは、希望に他なりませんでした。
 そうして今日、かれらは夫婦となり、みな様の前にいます。
 みな様は、かれらの間に結ばれた希望の同盟の立会人であります。健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も、かれらの、相手を想い、慈しみ、信じる気持に偽りはないことの、立会人であります。

 わたくしは、今日ここに婚姻の誓いをなし、新しい人生をともに歩み出そうとしている、お二人に申し上げたい。
 歩み行く道を阻む障碍から、目を瞑ってはなりません。目を背けてはなりません。
 お二人の間に対立や不信、裏切りがあってはなりません。
 問題を解決する努力を惜しんではなりません。そのための対話を放棄してはいけません。
 希望の同盟は、それを許しません。

 “a Combination of Hope.”
 希望の同盟とは、互いの献身と信頼によってのみ成り立つ。愛と信仰によってのみ、と言い換えても良いでしょう。
 希望の同盟。未来はそこからしか生まれません。◆

 ※と或る夫婦の結婚披露宴に於ける、新郎友人代表某氏によるスピーチ原稿。□

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