第3669日目 〈隔絶された空間で設計する、実現すべき未来 ──ナポレオン・ヒル『思考は現実化する』を読んで。〉 [日々の思い・独り言]

 突然の出来事に混乱するなかで、荷物に入れた本のあったことは幸いであった。退屈な病室での午後をやり過ごすに本は最適のアイテムだったから。覚えておくといい、モバイル端末は時に回線速度の遅滞やデータ容量の制限によって要らぬストレスを生み出して症状に障りをもたらす代物に早変わりするが、紙の本に斯様な支障はなんら存在しないことを。Kindleについては一旦無視する。
 入院期間約2週間で読書に励むことのできたのは、内10日程であったか。高気圧酸素治療とリハビリ、MRI検査は大概午前中に集中したので昼食の済んだ午後はなんの予定もない時間だ。この長大なる空白の時間を前にして、わたくしは途方に暮れた。今日一日ばかりの話ではない、入院している間はこの状態がずっと続く。午睡も結構、但し夜寝られなくなるのでご注意を。病院で独り眠られぬ夜を過ごすことは普段以上の苦痛を感じさせる。場所が場所だけに思考はどんどんネガティヴな方へと落ちこんでゆきそうだ。
 『クージョ』というスティーヴン・キングの小説がある。狂犬病に罹ったセントバーナードの話だが、そのなかで不倫した人妻が夫相手にする「空しさ」についての会話があった。子供が幼稚園に行くようになってしまうと独り家に取り残された自分は、暇な時間をなにかで埋めていかなくてはならない。それがとても不安なのだ。続けて曰く、──

 あなたは空しさというものがどういうものか知らないのよ、ヴィク。(中略)人気のない部屋を掃除しながら、ときどき外の風の音を聞くことがある。でもそれが自分の心のなかを吹く風の音のように聞こえることがあるのよ。そんなときはボブ・シーガーやJ.J.ケイルかだれかのレコードを聞くんだけど、やっぱり風の音は聞こえるし、役にも立たないさまざまな考えがうかんでくるわ。(P143 永井淳・訳 新潮文庫 1983/09)

──と。
 この気持、病室に独りでいる間何度となく味わった。外の風はなにをしていても聞こえるし、無用な考え・不埒な考えがあとからあとから湧いて出る。そうしてふとした瞬間に訪れる、ぽっかりと穴が開いたような空虚な時間──。
 が、幸いとわたくしは火遊びに興じなくても済んだ。わたくしには本がある。救急車を待つ間にまとめていた荷物のなかに読みかけの、或いはこれから読むつもりでいた本が入れてある。おお、目の前に広がる茫漠とした時間を埋めるに、これ程格好なアイテムがあろうか。これ程健全な時間潰しの方法があるか。これぞ天の配剤。
 そうして勇躍読み始めたのがナポレオン・ヒル『思考は現実化する』と、アジア・パシフィック・イニシアティブ『検証 安倍政権』である(補記参照)。
 もとより広義の成功哲学については一文を草する予定があった。『思考は現実化する』はそのための読書の最初を担ったわけだが、結果的に非常に機を得た読書となった。これは病室という普段の生活から完全に切り離された環境で読むのに相応しい一冊だった。細切れ時間に読むようなものではない、ということである。
 持参したのは文庫版上巻のみだったから、お見舞い/面会の際頼んで下巻を持ってきてもらった。試みに入院中にメモ・アプリで書いていた日記を開くと、上巻は07月05日午後〜07月09日07時38分、下巻は07月09日午後〜07月12日16時09分、それぞれ始めて読了となっている。ベッドに寝転がったり胡坐をかいたりして、読み耽ったのだ。気になる箇所、共鳴した箇所あらばページの上端を折ってその日のうちにメモ・アプリへ打ちこんで。
 入院中にこれが読めたことは幸運であった。細切れ時間云々のみの話ではない。日常と隔絶された環境に在って、己の行く末を冷静に、真摯に、客観的に、現実的に、来し方の反省を存分に踏まえて思いを巡らし、設計するのみばかりでなく描いた未来を実現するため今後なにを強く願い、そのためにどう行動し、熱意持ってそれに取り組み、義務と約束を果たしながら財を築き蓄え育ててゆくか、という〈お金持ちのなるための方法とプロセス、及びその実現〉について具体的な案を練ることができたからである。お金はあるに越したことはない。あればあるだけ生活の不安は解消されてゆく。有事の際お金のあることは安心材料となる。これを否定したり呵々したりするのは、お金の強さと怖さを身をもって経験したことのないシアワセモノだけであります。わたくしは経験と実感に基づいてこれを断言する。
 さて、退院して驚くべきことに早くも3週間が経とうとしている。その間わたくしは、入院中に描いた〈お金持ちのなるための方法とプロセス、及びその実現〉の端緒に手を着けることができたか。──残念ながら、頭を振るより他ない。日々の肉体労働と諸々の支払に追われる日常が戻ってきただけである。
 が、望みの灯し火は消えていない。否、その輝きは増す一方である。稼いだお金は手にした途端、生活のために何処ともなく飛んでゆく。税金、公共料金、保険料、生活費、等々等。ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースではないがそれは、簡単なこと(Simple as that)、なのだ。息を吸って吐いているだけで、いったい1ヶ月にウン万円以上はかかってしまう世知辛さ。が、望みの灯し火がその輝きを失わない限り、火勢が衰えても燠火として燻っている限り、残ったお金を(生活を圧迫させない程度に)貯蓄へ回す習慣と意思はわたくしのなかにあり続けるだろう。
 「望みだけで富を手にすることはできない」(下P39)とヒルはいう。然り。富を獲得するために必要なのは、成功する、富める者になる、という明確な願望と、不断の忍耐力に裏附けられたしっかりとした計画、である。「富は思考から出発する」(上P210)のだ。
 更にいい添えれば、心のなかに住まわせるべきは不安や恐れ、猜疑や嫉妬、怠惰といった負のメンタルではなく、富を得た自分の姿と願望成就させる燃えるような熱意、である。
 いみじくもナポレオン・ヒルはこう述べる。引いて擱筆としよう。曰く、──

 成功は成功を確信する人のもとに訪れる。少しでも失敗を意識すれば失敗する。(上P142)

──と。これ程明解な成功哲学は、そうそうあるものでない。◆

 補記
 『検証 安倍政権』についてこのような文章を書くことはないだろう。Twitterの読了ツイートがすべてだ。が、最後の改憲の章は青木理『安倍三代』を読んでの感想文に、芦辺信喜『憲法』共々絡められる部分あるのではないか、と思案している。□


検証 安倍政権 保守とリアリズムの政治 (文春新書 1346)

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  • 作者: アジア・パシフィック・イニシアティブ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/01/20
  • メディア: 新書




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