第0783日目 〈ハイドン、だいすき。〉 [ウォーキング・トーク、シッティング・トーク]

 先日購入したハイドンの弦楽四重奏曲は《第一トスト四重奏曲集》です。作品番号はOp.54&55/Hob.Ⅲ:57-62。今日はマイルスもサラ・ヴォーンも脇へ押しやって、ひたすらこの6曲ばかり聴いていました。トレイから出して他へ換えるのが面倒臭かったわけではなく、快晴から薄曇りへ変化してゆく空を眺めながら、詩編のノートを執っているときや、『ヘンリ・ライクロフトの私記』を読んでいるとき、これらの曲が非常に耳へやさしく馴染んで心地よかったために他なりません。そう、今日はドストエフスキーを読む気分にだけはどうしてもなれない日だったのです。まぁ、そういう日も、偶にはあります。
 なお、演奏団体はBuchberger Quartet、BRILLIANTにてリリース中の弦楽四重奏曲全集第10巻です。いきなりボックスセットが出た当座は腹に据えかねる思いがしたなぁ。迷ったけれど少しずつ買い集める方が性に合っていますので、地道に気長に店頭の新譜コーナーに並ぶものを漁っているわけです。
 バッハやモーツァルトの如く易々と伝記へ触れることや、遺された作品の全体像が摑みにくいのが、ハイドンへ親近しようとする人を阻む要因の一つではないでしょうか(子供向けの音楽家の伝記シリーズではハイドンも流石に入っておりますが)。<交響曲の父>ハイドンが音楽史へ残した足跡は計り知れぬ程であるのに、この人の曲を気に入って特定のジャンルなり全体なりを俯瞰し、追っかけようとすると、頼りにし得る目録代わりの本が意外と存在しないのに呆然とさせられます。現役で新刊書店の棚に並んでいるのは、音楽之友社の「作曲家別名曲解説ライブラリー」の一冊だけではないのかしら。さんさんかが手許に置いてときどき開いているのは、同じ音楽之友社から「大音楽家・人と作品」第2巻として刊行されていた本で、著者は大宮真琴。残念ながら既に絶版の模様です。この本の後半は作品解説で、巻末部分に交響曲から世俗無伴奏カノンまで記載された作品リストがありまして、これには非常に恩恵を被っております。なにより、手軽に持ち運べる新書サイズなのがよい。この本には日本人が初めて書いたハイドン伝、ハイドン研究書という栄誉がある。気負いも見られようが、それだけに公正明解に書かれて余計な粉飾が施されていない、最初に読むに相応しい一冊であることは間違いないでしょう。
 それはさておくとして、ハイドンの音楽は聴いていて安心できる。少なくとも、不快にさせられること、不安にさせられること、戸惑わされることは、ない。ハイドンの音楽にハズレはないからです。ここには、あらゆる類の愉悦が詰まっている。鑑賞者側にハイドン愛好者が少なく、演奏者側にハイドン・ファンが多いのは、もしかするとそんなあたりに理由の一端があるのかもしれない。かつて出会った音楽ファンや演奏家たちを思い出してみて、ふと、そんなことを思ってみました。海外ではハイドンの人気、非常にあるそうですが……。
 自分がハイドンに魅せられたきっかけは、十年以上前に芸大の奏楽堂で聴いた弦楽四重奏曲のコンサートであった。実際CDを買って聴くようになるまでだいぶ時間を費やしたけれど、後悔はしていない。待っただけにいまとても満足できる多くの音盤と出会えたからだ。おまけに、交響曲や弦楽四重奏曲は全集進行中のものが複数ある。となれば、この時代にこそハイドンを聴かずしてどうするのか、と啖呵の一つも切ってみよう、というものだ。でも、例の「セレナード」も含めて、ハイドンの弦楽四重奏曲は良いですよ。是非、買って聴いてみてください。本当に素晴らしくて、法悦に充ち満ちていますから。◆

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