第0870日目 〈〈ワールドクラシック@シネマ2011〉②;英国ロイヤル・バレエ、プロコフィエフ《ロメオとジュリエット》を観ました。〉 [日々の思い・独り言]

 鳴り響く勇壮な<騎士たちの踊り>を聴いてソフトバンクのCMか『のだめカンタービレ』を思い出す人は多いはず。わたくしは専ら後者で、玉木宏演じる千秋が例の俺サマ独白で険しい表情を浮かべて大股で歩く場面が思い浮かぶ。実在するシーンかは覚えていないが、ありそうな場面ではある。実際はシュトレーゼマンのテーマ曲(?)なんですけれどね。
 その<騎士たちの踊り>を含む楽曲が、プロコフィエフ作曲のバレエ音楽《ロメオとジュリエット》だ。今日は故郷、海と港の街にある映画館にて一週間限定上映中のバレエ映画《ロメオとジュリエット》を観てきました。昨日の《カルメン》で幕を開けた〈ワールドクラシック@シネマ2011〉の第2弾。英国ロイヤル・バレエ団が昨年2010年6月29日、東京文化会館大ホールを会場に公演した、プリンシバル吉田都の退団公演の映像です。昨秋NHK教育の「芸術劇場」でも放送された由、ご覧になった方も居られよう。
 3,500円という結構な額を払って出掛けて、観終えたあとの感想は、「バレエってこんなに面白かったのか!」という未知との遭遇を果たしたかのような、それ。いままでわたくしの周囲にバレエ関係者は多くいた。クラシック音楽が好きだから何作かはバレエ音楽も聴いてきた(全曲。組曲も含めればもう少し多くなるか)。でも、舞台上演に━━最初から最後まで━━接したことはない。実演であれ、映像であれ。
 だから今回は不安が心中の半分ばかりを占めていたのだ。一言でいえば、退屈になったり飽きて寝たりしないかな、と。でも、ふと気が付くと、暗がりの中で息を殺して惚れたように観ている自分がいた。それ程心を奪われたのだ。活き活きとしてまるで台詞が聞こえてきそうな振り付けは、1965年に同じロイヤル・バレエが初演したケネス・マクミラン版。世界でいちばん親しまれている演出であるそうだが、幾らそれとてダンサーたちが駄目では目も当てられません。
 が、そこはやはり英国ロイヤル・バレエのダンサーたち。表情も仕種も踊りも惚れ惚れしてしまうようなキレと味わいの深さ。こんなすばらしい舞台がもう決して生で観られないなんて! 自分の無関心、無知と無財を嘆きます。
 吉田都とロメオ役のスティーヴン・マックレー(草食系男子!)の主役コンビも勿論良いのですが、それ以上に惹きつけられたのがジュリエットの母の甥、ティボルト役のトーマス・ホワイトヘッド。ちょっぴりジョニー・デップ似な彼がひとたび舞台に現れる/画面に映りこむと、途端に空気が引き締まったように感じられたのだ。その彼を中心にして踊られるときの音楽が、冒頭で述べた<騎士たちの踊り>である(第1幕第13曲)。ここはね、身震いする程の場面ですよ。
 で、肝心のジュリエット役の吉田都。初めて登場したときの盛大な拍手に、この人がどれだけの業績を打ち立て、実力と人気の持ち主であるかを教えられた気がします。あとで読んだバレエ辞典によれば難役のオーロラ姫(《白鳥の湖》)とオデット(《眠れぬ森の美女》)をレパートリーにしている、というのだから相当な才能に恵まれた人なのだろうな、ぐらいはなんぼなんでもわたくしだってわかる。うーむ、すごい人が大好きなイギリスの伝統あるバレエ団にはいたのだな、と今更ながら驚嘆。素人丸出しの発言ですけれど、いまに至るまでその名を仄聞したことはあっても踊りを目にする機会をむざむざ逃してきたことを、わたくしは本当に悔やんでいます。さりながらこの人はまことに可憐な方ですね。うっとりしてしまいます。吉田都のジュリエット━━これは一つの理想形として、しばらくわたくしのなかに残り続けそうです。カーテンコール後、感動的なお別れパーティー(ん~、なんと呼んでよいのかわからん)まで目は釘付け、けっしてただの一瞬間も視線を外す事なかれ。
 それにしても、と思います。舞台作品を映像で、優れたカメラワークに支えられた映像で観る恩恵について。しかもAV環境の完備された映画館で腰を据えてみる利点について。それはなんというても舞台上の人々の表情、仕種がはっきりとわかる点だ。特に今回のようなバレエ━━無言劇であるがゆえに目の動きや体の動きがすべての感情や状況を説明することになるバレエの場合、映像で観る恩恵、映画館で観る利点は大きいでしょう。たしかにライヴ感覚は損なわれるかもしれない。雅、そのライヴ感覚とは、自分がどれだけ全身で映像に向き合い、映像のなかの世界へ没入するか、で或る程度までは補われるものだと思うのです。最後にモノをいうのは、とどのつまりは想像力なのではないでしょうか。これは〈ワールドクラシック@シネマ2011〉のみならずlivespireシリーズの全作品、或いはMETのライヴ・ビューイングについてもいえることだと思います。
 話を元に戻しますと、初めてちゃんと鑑賞したバレエが、そうして初めて観た《ロメオとジュリエット》が、今回の英国ロイヤル・バレエによる公演であって、幸運という以上の幸運に恵まれた心持ちです。数あるバレエの有名作であるからこそ、最初の出会いは最良、最上のものであってほしい。そんな意味でも〈ワールドクラシック@シネマ2011〉にこの作品、この映像━━吉田都の凱旋公演にして退団公演、即ちこれ以上望みようもない万全の《ロメオとジュリエット》公演の映像がプログラムに入れられたことに、わたくしはすなおな感謝の念に襲われるのであります。本音をいえば、あともう一回、観に行きたかったですね……。◆

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