第1280日目 〈ダニエル書第8章:〈雄羊と雄山羊の幻〉withいま再びギリシア神話その他が読みたくなった!〉 [ダニエル書]

 ダニエル書第8章です。

 ダニ8:1-27〈雄羊と雄山羊の幻〉
 ベルシャツァル王の御代第3年にわたくしダニエルが見た幻、――
 エラム州の都スサを流れるウライ川の畔にいると、川岸に1頭の雄羊が現れた。2本の長い角を持っていた。内、1本はもう1本よりも長く、後ろに生えていた。雄羊は北に、南に、西に暴れて、行く先々の獣を踏み倒した。雄羊に虐げられる獣を救い出させる者はない。雄羊はますます暴れ、傲慢に振る舞った。
 その雄羊に、西に現れて全地の上を凄い勢いで進んできた雄山羊が迫って、衝突した。雄山羊は相手の角を折ってこれを倒し、抛ち、踏みにじった。雄山羊の勢いは更に増した。かれは尊大の親玉となった。
 が、力が絶頂にあったとき、額の1本の角は折れた。その跡から4本の小さな角が生えて、天の四方へ伸びた。その内の1本には、小さな角がもう1本生えた。それは四方へ伸びた角のなかでいちばん強く、南へ、東へと勢いを伸ばした。
 そうしてその勢いは遂に<麗しの地>へまで至った。天に坐す万軍の主にまで及んだ。日々の供え物は捨てられ、聖所は破壊された。<麗しの地>からは真理が失われ、代わって罪が蔓延(はびこ)った。暴虐の大風は収まらなかった。
 聖所と万軍とが踏みにじられる、この幻の出来事は果たしていつまで続くのか。そう訊ねる声があった。それに答える声があって、日が暮れ夜が明けること2,300回に及んで、ようやく聖所はあるべき姿に回復する、といった。
 わたくしはこの幻を見ながら、これの意味を知りたい、と願った。すると、まるで勇士のような姿が前に現れた。どこからか人の声がして、その姿に向かって、ガブリエルよこの幻の意味をかれに説明せよ、といった。ガブリエルと呼ばれたその姿が近附いてきたので、わたくしは恐れてひれ伏した。
 ガブリエルがいった、この幻は終末にまつわるものである、と、気を失いかけて倒れそうになったわたくしを助け起こして、ガブリエルは続けた。
 この怒りの時の終わりになにが起こるか、あなたに見せよう。幻に現れた雄羊はメディアとペルシアの王である。雄山羊はギリシアの王である。その額の角は第一の王である。その跡に生えて<麗しの地>を蹂躙した角は最悪の王、4つに分裂したギリシアの内で最も狡猾で高慢な王である。かれは聖なる民とその信仰、その神を駆逐せんとする。が、遂に最も高き者、最も大いなる君と相対して、人の手によることなく倒される。
 この、夜と朝の幻は真実である。しかしあなたはまだこれを誰に語ってもいけない。あなた一人の秘密とせよ。
 ――わたくしはこの幻のあと、病気になって何日間も宮廷への出仕を休んでしまった。わたくしはこの幻に呆然となり、理解できずにいる。

 幻のなかでダニエルがいるのは、エラムであってエドムではありません。似た名詞が出て来て時々頭がこんがらがっちゃうとき、ありますよね。でもだいじょうぶ、間違いにはいつか気が付くから。
 エラムはイラン南西部にあった国家で、ラピスラズリなどの宝石の産地として、都市スサ(スーサ)を中心に発展した。後、ダレイオス1世によってアケメネス朝ペルシア帝国の首都となった。ウライ川はスサのなかを流れていた川(運河)であります。
 「第一の王」はアレクサンドロス3世ことアレキサンダー大王を示しますが、では、「4つに分裂したギリシア」とはなにを指すか。
 アレクサンダー大王がバビロンで熱病のため急逝したのは前323年のことでありました。版図拡大を辿る一方で支配機構が確立していなかったギリシア帝国は、かれの急逝を承けて瞬く間に瓦解します。
 崩御後のギリシアは大王の遺言もあって(「最強の者が王国を継承せよ」)、ラミア戦争を皮切りとする数次に渡ったディアドコイ戦争が勃発します。ディアドコイとは、後継者、の意味であります。この戦争によってギリシアは4つに分裂しました。「4つに分裂したギリシア」とはこれのことです。即ち、――
 ・カッサンドロス朝マケドニア;マケドニア本国
 ・セレコウス朝シリア;シリア、バビロニア、イラン高原、小アジア東部
 ・プレトマイオス朝エジプト;エジプト、キプロス
 ・リュシマコス朝トラキア;トラキア(現:ブルガリア)、小アジア西部
――であります。が、このなかでカッサンドロス朝マケドニアはすぐに弱体化し、代わってアンティオコス2世によるアンティオコス朝がマケドニアの覇権を掌握することになります。そうして最終的にはリュシマコス朝を除く3つの王朝にまとまってゆきました。
 紛らわしいなかを恐縮ですが、「最悪の王」とした王は、既に何度か名前の出て来たセレコウス朝アンティオコス4世エピファネスであります。
 雄羊はメディア・ペルシアの王、と、ダニ8:20にあります。この王はダレイオス1世。雄山羊はギリシアの王、と、ダニ8:21にありますが、これはアルゲアデス朝マケドニア帝国の君主、アレクサンドロス3世ことアレキサンダー大王のことです。前331年、チグリス川上流のアルベラ・ガウガメラにて両者はぶつかりますが、ペルシア軍の敗走を以てこの合戦は幕を降ろしました。
 この一件を契機にして、アケメネス朝ペルシアは歴史の表舞台から姿を消しました。言い換えれば、ギリシアがオリエント地方をもその勢力下に置いた、その地域に覇権を確立した、ということであります(ギリシアが東方へ勢力を拡大したこの時代はヘレニズム時代と呼ばれました)。しかし、勢力圏に置いたものの支配機構がきちんと機能しないままアレクサンダー大王の急逝を迎えたのは、前述の通りであります。このあとに、ディアドコイ戦争が起こったのであります。
 ちょっと煩雑になりましたが、本章は、或いは本書は、われらが中学・高校時代に習った世界史とリンクしてきた大事な部分でもありますので、長々とこんな風に(自分の覚え書きも兼ねて)記してみました。ご理解いただければ幸いです。もし興味や関心を覚えた方がいらっしゃれば、大手出版社から出ている歴史叢書や、或いは山川出版社から出ている『詳説 世界史研究』をお読みになってみると良いと思います。「山川世界史」はわたくしもいま横に置いて開いていました。読みやすくて、わかりやすい。これ以上の基礎文献はないように思います。

 贅言をお許しいただきたい。意に反して2日間の休みを必要としたのは、本章のノートがなかなか仕上がらなかったからでした。特に難しくもない章ですが、満足する形でまとめることがなぜか出来なかった。
 イタリアの港町っぽい名前のカフェやポオの短編小説のフランス語読みのカフェとかではミューズは降りてこないのかな、やっぱり自宅や図書館やスターバックスで読んでノート取って、でないと駄目なのかな、とか、そんなジンクスめいたことも考えたりしましたよ。えへ。
 いちおうそれなりに四苦八苦した結果がお読みいただいた上掲のものですが、果たして出来映えは如何でしょうか?



 旧約聖書の内容にギリシアの影が侵入してきました。だから、というわけではないと思うけれど、いま再びギリシア神話が読みたくなった! 序に、学生時代に読んで以来この方ご無沙汰であった古代ギリシア文学も読みたくなった。
 ――というわけで、GWのセールも終わって棚がいつも以上に殺風景になったままなブックオフで、呉茂一『ギリシア神話』上下(新潮文庫)と同じく呉茂一編訳『ギリシア・ローマ抒情詩集』(岩波文庫)を105円コーナーから救出してきましたよ。これは手始め。じきにホメロスやソフォクレスも読み直したいですね。
 さて、仕事が休みな明日の朝は、パンケーキ焼きながらこれを読むとしますか。◆

共通テーマ:日記・雑感

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。