第1417日目 〈創世記第15章:〈神の約束〉withG.ギッシング『ヘンリ・ライクラフトの私記』、新訳刊行。〉 [創世記]

 創世記第15章です。

 創15:1-21〈神の約束〉
 様々あったあと、主の言葉がアブラムに、かれの幻のなかで臨んだ。曰く、――わたしはあなたの盾である、あなたが享受する報いはとても大きいだろう、と。
 わたしが受ける報いとはなんですか。そうアブラムは問うた。わたしたち夫婦には子供がおりません。わたしの家を継ぐのはダマスコ出身の僕(しもべ)エリエゼルです。
 主が答えた。あなたの家を継ぐのは家の僕などではなく、あなたとサライの間に産まれる実の子である。外へ出て夜空を仰ぎ見るがよい、あなたは星の数をちゃんと数えられるだろうか。まさしくあなたの子孫はあの空に瞬く星のように増えて栄える。
 「アブラムは主を信じた。主はそれを彼の義と認められた。」(創15:6)
 続けて、主がいった。わたしはあなたにこの地を与え、あなたの子孫にこの地を相続させる。アブラムよ、あなたはこれを献げ物によって知ることが出来る。即ち、3歳の雌牛と雄山羊、雄羊と、山鳩と鳩の雛を祭壇まで持ってきなさい。
 アブラムはそうした。牛と山羊、羊を半分に裂いて、向かい合わせて置いた。やがて日が傾くと、アブラムは深い眠気に襲われた。恐ろしく大いなる暗黒がかれに臨んだ。そのなかで、主の言葉、――
 「よく覚えておくがよい。あなたの子孫は異邦の国で寄留者となり、四百年の間奴隷として仕え、苦しめられるであろう。しかしわたしは、彼らが奴隷として仕えるその国民を裁く。その後、かれらが多くの財産を携えて脱出するであろう。あなた自身は、長寿を全うして葬られ、安らかに先祖のもとに行く。ここに戻ってくるのは、四代目の者たちである。それまでは、アモリ人の罪が極みに達しないからである。」(創15:13-16)
 日が沈み、あたりは暗闇に閉ざされた。すると何処からか煙を吐く炉と燃える松明が来て、半分に裂いて置かれていた動物の間を通り過ぎていった。
 その日、主はアブラムと契約を結んだ。そうして、ユーフラテス川からエジプトまでの間の土地、そこに暮らすアモリ人やカナン人、エブス人らの土地をあなたの子孫に与える、といった。

 まず、かねてよりアブラム夫妻が懸念していた家の相続者について。実はかれらの家を誰が継ぐかは決まっていた。子のないかれらの家は僕の者が継ぐことになっていたようだ。が、主はここで明確に<否>を下した。即ちイサク誕生の、最初の予告である。
 イサクの誕生は創21にて語られますが、それ以前にも都合3度、誕生が予告されている。本章の他、創17:19と創18:10、14である。ここで主がいうのは、アブラムとサライの実子がカナンの地を嗣業の地として相続してゆく、2人の間に生まれた子は星の数程に増えて栄えてゆく、という点だ。旧約聖書の歴史の舵が、われらの知る未来へと切られた瞬間であります。
 本章に於いて歴史書としての旧約聖書は本式に開幕した、というてよいでしょう。
 が、それと同じぐらいに大事なのが、引用もした主の台詞の内容、即ち出エジプトにまつわる予告であります。民族繁栄の礎となる挿話にて、早くもかれらが未来に迎える辛苦が語られる。
 奴隷となって出エジプトを果たすまで実際は約430年と、主がいうよりやや長い時間を要すことになるが、ここで主が強調するのは、斯様なことがあってもかならずわたしがアブラムの子孫に与えたこの土地(カナン)へ帰ってこられるからけっして腐ったりせず、主を信じて依り頼め、というのである。
 やがてモーセの意志をも継いでヨシュアがイスラエル部族を率いてカナンへ侵攻しますが、これは既に予告された未来の実現でしかなかったのかもしれない、と考えると、「創世記」に旧約聖書の重要なエッセンスは殆どすべて詰まっているように思うのであります。



 光文社古典新訳文庫からギッシング『ヘンリ・ライクラフトの私記』の新訳が出された。およそ初めて読んだ岩波文庫の「イギリス文学」ということもあり、またそこに書かれた貧乏文士ライクラフトがどうしても他人と思えぬ場合もあり、今回の新訳に期待して、書店の平台に積まれたそれに手を伸ばし、さっそく一本を購ったわけだが、どうにも読むに意志と忍耐を必要とする代物で、とてもでないがこれが風雪に耐えて生き残る日本語ではない、と思うた。非道い悪訳、というのではない。ずいぶんとずるっぺたな、粘着質の文章で、読んでいて皮膚にナメクジが這うような嫌悪感を覚えた。ティブルス詩集を手に入れたときのライクラフトの悦びがまったく伝わってこないのは、とても残念なことでありました。
 この作品、買って読むなら岩波文庫がお奨め、但し、巻末の解説は良い。この点を以て光文社古典新訳文庫は買うべき、というてもなんら可笑しくないでしょう。◆

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