第1611日目 〈村上春樹『パン屋再襲撃』を読みました。〉 [日々の思い・独り言]

 村上春樹の5冊目の短編集『パン屋再襲撃』(文春文庫)を読了しました。ペースは頗る順調、この様子なら盛夏の季には既刊のオリジナル短篇集はすべて読破できそう。みくらさんさんか、がんばります。
 『パン屋再襲撃』は全部で6編の作品を収める。なかでも人口に膾炙しているのは、表題作と「象の消滅」、「ねじまき鳥と火曜日の女たち」であろう。「パン屋再襲撃」は山川直人によって映画化され、「象の消滅」はアメリカで出版された短編選集のタイトルとなった。「ねじまき鳥と火曜日の女たち」はその後、長編『ねじまき鳥クロニクル』の冒頭部に、殆どそのまま組み込まれた。
 あなたが好む短編はどれですか? そう訊かれたら、悩み疲れた挙げ句無難に「象の消滅」を集中ベストに推す。これは、動物園の閉園に伴って町で飼育することになった老象が、数年後の或る日、飼育員共々<消滅>してしまう、という作品である。なぜ象と飼育員はその朝消えたのか。痕跡一つ残さず、誰にも目撃されることなく、如何に消滅し得たのか。著者はそれについて、何一つ提示しない。暗示もしない。語り手は「象が忽然と消えた」という事実を淡々と物語るだけだ。語らず解かず、という村上作品の特徴が凝縮された一編であります。
 次点は、これも迷った末に、「双子と沈んだ大陸」にあげましょうか。かつて関わりを持った双子を偶然雑誌のグラビアで見た語り手の、流れるようなモノローグに魅力を感じます。後半はコールガール相手に語る、壁の向こう側に閉じ込められてゆく双子の夢の話となるが、ここもまた痛ましくて、ひたぶるに哀しくて、しみじみとしてくる。好き、とか、お気に入り、とかいうことを、具体的に説明するのは難しいけれど、印象鮮やかで余韻の残る作品であります。
 「ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界」は、内容はともかく、その語り方は面白いと思いましたね。
 まだ短編集を5冊しか読んでいない者がこんなことを言うのも可笑しいかもしれないが、本書『パン屋再襲撃』は、村上春樹は長編よりも短編と信じる者にはベスト・オブ・ベストな作品集であり、これから村上春樹を読もうかな、と考えている人には最初の段階でチョイスいただきたいもオリジナル短編集の一つであります。



 現在は朝夕の通勤や就寝前の一刻に『TVピープル』を読んでいる。これの感想をお披露目するまで、村上春樹の話題は封印します。たぶん、守れるだろう。
 そうだ、未だに『ねじまき鳥クロニクル』と『スプートニクの恋人』、『海辺のカフカ』の感想を書いていない。読書プロジェクトが終わるまでになんとかしなくっちゃ。◆

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