第1671日目 〈「知恵の書」前夜〉 [知恵の書]

 「知恵の書」は次の「シラ書(集会の書)」と同じく、旧約聖書に於ける「箴言」の系統に属します。13の書物で構成される旧約聖書続編のうち、「知恵の書」は6番目に置かれる(新共同訳)。ほぼ中間に本書と「シラ書」という、いわゆる知恵文学が並び、その前後に広義の文学と預言書に属す書物群があることは、目次を眺めていてちょっと面白いな、と思うたところであります。こうした構成は概ね旧約聖書に倣っているようですね。フランシスコ会訳聖書では、続編に含まれる諸書は旧約聖書の系統を同じうする書物と並んで置かれております。
 覚えていらっしゃるでしょうか、「箴言」はその著者がソロモン王に仮託されていたことを。この、イスラエル統一王国第3代にして最後の王が知恵に恵まれた、聡明なる君主であったことから、斯く擬えられたのでありましょう。明日から読む「知恵の書」についても同じ現象が、実は起こっております。やはりこの書物もソロモン王の著とされ、それゆえに「ソロモン王の知恵の書」とも呼ばれます。
 では、実際のところ、「知恵の書」の著者は誰なのか。いちばん有力視されるのは、エジプトの都市アレキサンドリア在住のユダヤ人であります。本書はだいたい前1世紀頃には成立していたという。プトレマイオス朝エジプトの首都アレキサンドリアは、地中海交易を要に商業と文化の中心地として発展、栄えました。古代に於いて最大・最高を誇ったアレキサンドリア図書館も、この時代はまだ健在だった。そうして、当時のアレキサンドリアは、離散ユダヤ人の一大拠点でもありました。「知恵の書」の著者は、そんな時代のアレキサンドリアに在って、ヘレニズムの思考を吸収した、旧約聖書とユダヤ/イスラエルの伝統や思想を大切にしたユダヤ人である、と思われます。ユダヤの思考や思想に専ら拠って成った「箴言」と、ヘレニズムの影響下に成立した「知恵の書」を子細に検分してゆけば、その違いは自ずと明らかになる──そうですが、無念なことにわたくしはそのあたりについて詳しくわかる者ではないので、これ以上の発言は控えたく思います。
 書名に引きずられると内容を読み誤るケースは多々ありますが、それは本書についても然りであります。本書で語られるのは、神への信仰、その根幹にある教訓と知恵の数々。「箴言」の系統に属するからというて、人生や生活にかかわる知恵や諭しについて述べられるわけではありません。「知恵の書」は、信仰生活を送るに際して心に留めておくべき教訓や知恵について語ります。それらがイスラエル民族の歴史にどう作用したかを、縷々綴っております。それは神への讃歌であり、義の人を尊び、不義の人の愚かなることを伝える書物なのであります。
 本書は、旧約聖書と新約聖書をつなぐ輪のようなものである、と、フランシスコ会訳聖書の解題に記されております。また、ジークフリート・ヘルマンその他の人々が、「知恵の書」の文言の幾つかが新約聖書に引用されている、といいます。或る意味で「知恵の書」は旧約聖書続編のなかでいちばん、新約聖書に親近した書物といえるかもしれません。
 知恵は人間にとって無尽蔵の宝である、と「知恵の書」作者は述べます(7:14)。読者諸兄にどこまでその真なることを訴えてゆけるかわかりませんけれど、できる限り、あるだけの力を尽くそう、と思います。本書は全19章より成る。つつがなく進展すれば、まだカレンダーが7月であるうちに読了することができるでしょう。
 では明日から、1日1章の原則で「知恵の書」を読んでゆきましょう。◆

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