第2417日目 〈『ザ・ライジング』第2章 14/38〉 [小説 ザ・ライジング]
「うん、大好き」とにっこりしながら美緒はいった。「子供のときね、私って病気でよく学校を休んでたの。小学校の三年生のころかな、やっぱり病気で家にずっといた私に、山梨にいるお祖父ちゃんがトールキンの『ホビットの冒険』と世界中の神話が一冊になった本を送ってくれたの。とても面白くってねえ、夢中になって読んでたら次の日の朝になってて、お母さんにものすごく怒られた。それからじゃないかな、私がファンタジィとか神話とか読み始めたのは」
膝の上に置いた『幽霊の恋人たち』の表紙を愛おしそうに撫でながら、美緒はゆっくりといった。「それに私、いじめられっ子だったからね。友達もずっといなくて、本の世界へ逃げる他なかったの。……五年生のときにふーちゃんに出会って、いじめっ子をガツンしてくれて、ようやく他の子とも遊べるようになったんだよね……」
「初めて聞いた。いやなこと思い出させちゃったね、ごめん」
「あ、ううん、だってふーちゃんしか知らないもん、このこと。でも、黙ってたわけじゃないの。私こそ、ごめんね」
「いいよ、美緒ちゃん自身のことなんだから。話したいときに話せばいいよ」と希美はいって、コーヒーを一口啜った。
横に坐る報われぬ想い人の横顔をそっと眺めながら、美緒は唇をぎゅ、っと噛んだ。
――そうよ、コーヒー……。
ちょっとちょっと、ねえ、待ちなさいよ、希美ちゃんがなにを飲もうとあんたには関係ないでしょ?
そりゃ、そうだけど……。
いいこと、美緒、あんたがどれだけ希美ちゃんを想ってるかわかってるよ、だって私はもう一人のあんただから。でもさ、あんたがどれだけ想っても、どれだけ嫉妬したって希美ちゃんがパートナーに選ぶのはあんたじゃないんだよ?
わかってるわよ、そんなこと!! それぐらい、私だってわかってる……確かに〈女〉と〈女〉よ。でも、好きになっちゃったんだから仕方ないじゃない!
おお、怖い、怖い。なにも逆ギレしなくたっていいじゃない……。
逆ギレなんかしてない!
もういいよ、好きにしな、って。
いつまで自分の気持ちを抑えていられるなんか、わかんないよ……。
「美緒ちゃん?」希美が肩を揺さぶっていた。「泣いてるの?」
泣いてる? 美緒はその声に導かれるように右手を動かし、甲で目蓋を拭った。あ、本当だ、濡れてる。
「はあ、ごめんね。なんだか小学生の頃を思い出しちゃったみたい」と美緒は無理に笑顔を作った。「おかしいね、こんなの……」
「ううん、そんなことないよ。昔は昔、いまはいま、ね?」
美緒が上目遣いで笑みながら頷いた。「ありがとう、希美ちゃん……」
「いえ、いえ、どういたしまして。――ところで、美緒ちゃん?」
「ん、なに?」
「お汁粉、冷めちゃうよ?」
「あ、もう、やだあ!?」
美緒はあわてて缶を持ち直した。しばらく美緒は無心にお汁粉をたいらげることに専念した。□
膝の上に置いた『幽霊の恋人たち』の表紙を愛おしそうに撫でながら、美緒はゆっくりといった。「それに私、いじめられっ子だったからね。友達もずっといなくて、本の世界へ逃げる他なかったの。……五年生のときにふーちゃんに出会って、いじめっ子をガツンしてくれて、ようやく他の子とも遊べるようになったんだよね……」
「初めて聞いた。いやなこと思い出させちゃったね、ごめん」
「あ、ううん、だってふーちゃんしか知らないもん、このこと。でも、黙ってたわけじゃないの。私こそ、ごめんね」
「いいよ、美緒ちゃん自身のことなんだから。話したいときに話せばいいよ」と希美はいって、コーヒーを一口啜った。
横に坐る報われぬ想い人の横顔をそっと眺めながら、美緒は唇をぎゅ、っと噛んだ。
――そうよ、コーヒー……。
ちょっとちょっと、ねえ、待ちなさいよ、希美ちゃんがなにを飲もうとあんたには関係ないでしょ?
そりゃ、そうだけど……。
いいこと、美緒、あんたがどれだけ希美ちゃんを想ってるかわかってるよ、だって私はもう一人のあんただから。でもさ、あんたがどれだけ想っても、どれだけ嫉妬したって希美ちゃんがパートナーに選ぶのはあんたじゃないんだよ?
わかってるわよ、そんなこと!! それぐらい、私だってわかってる……確かに〈女〉と〈女〉よ。でも、好きになっちゃったんだから仕方ないじゃない!
おお、怖い、怖い。なにも逆ギレしなくたっていいじゃない……。
逆ギレなんかしてない!
もういいよ、好きにしな、って。
いつまで自分の気持ちを抑えていられるなんか、わかんないよ……。
「美緒ちゃん?」希美が肩を揺さぶっていた。「泣いてるの?」
泣いてる? 美緒はその声に導かれるように右手を動かし、甲で目蓋を拭った。あ、本当だ、濡れてる。
「はあ、ごめんね。なんだか小学生の頃を思い出しちゃったみたい」と美緒は無理に笑顔を作った。「おかしいね、こんなの……」
「ううん、そんなことないよ。昔は昔、いまはいま、ね?」
美緒が上目遣いで笑みながら頷いた。「ありがとう、希美ちゃん……」
「いえ、いえ、どういたしまして。――ところで、美緒ちゃん?」
「ん、なに?」
「お汁粉、冷めちゃうよ?」
「あ、もう、やだあ!?」
美緒はあわてて缶を持ち直した。しばらく美緒は無心にお汁粉をたいらげることに専念した。□
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