第2430日目 〈『ザ・ライジング』第2章 27/38〉 [小説 ザ・ライジング]

 視線をわずかに左へずらすと、三台のベッドが見えた。いちばん窓際のベッド(それは高村のところからいちばんはっきりと見えたベッドでもあった)に池本と上野がいた。池本はピンクのパンティを左脚に絡ませただけの姿で、上野はまったくの裸で、ベッドの上で互いの体をむさぼり、歓喜の声をあげていた。
 高村は唾を呑みこんだ。知らず知らずのうちに目が開かれていった。と同時に股間がじわ、っと熱くなるのも感じられた。これ以上見ていたら、私、どうなるかわからない……。もうだめだ、ここから離れよう。そう決めた矢先だった。
 上野のそそり立ったペニスが視界に飛びこんできた。不気味なまでに赤黒く、血管が浮かびあがっている。亀頭からカリ、サオの部分まで、離れた場所からでもはっきりそうとわかるほど濡れそぼっていた。池本が味わった跡だろうか、と高村は考えた(正解!)。ビクンビクンと脈動し、ペニスの太さ長さはそのたびに増しているような錯覚を感じた。それはいままで高村が出会ったことのない、まさに自分の中に入るかどうか不安にさせられる代物であった。
 だめ、いますぐ覗きはやめなさい……。
 高村はそっと扉を閉めると、そのまま後ろにひっくり返ってしりもちをついた。足に力が入れられない。後ろ手に腕を伸ばし、窓枠を強く握りしめ、どうにかこうにか立ちあがった。体はなおもよろめいた。
 一刻も早く保健室の前から逃げ出したい一心で、高村は千鳥足でその場をあとにした。幸いなことに、その姿を見ているものは一人としていなかった。

 バスケットボールの試合は、意外に接戦となっていた。スコアボードに記されている数字は、共に〈四〉。残り時間は二分を切っていた。どちらかのチームが相手ゴールにボールを入れれば、おそらくそのチームは頭一つ分リードしたまま逃げ切れるだろう。相手チームのオフェンスを従えた美緒がドリブルしながら突然走るのをやめると、そのまま併走していた星野香奈にボールをパスした。相手のオフェンスは対象を変えると、必死の形相で星野のボールをカットしようと躍起になった。
 どちらのチームに勝利の女神がほほえむのかわからなくなってきた試合を眺めながら、彩織は少し背中を丸め、靴下をはいた足首をさすりながら、隣の希美にちらりと視線をやったがすぐに正面へ戻し、訊いた。
 「なあ、のの。国民投票の結果はああなったんやけど、これからどうする?」
 「どうする、って?」
 「いや、つまり、本当にハーモニーエンジェルスに入りたいんかな、そう思って」
 「いってる意味がよくわからないんだけど?」
 「だってのの、就職するんやろ? 何年かしたら白井さんと結婚するつもりやろ? ハーモニーエンジェルスに入ったら、未来がまるっきり変わってしまうんや。それでもええのんか?」□

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