第2470日目2/2 〈『ザ・ライジング』第3章 28/28〉 [小説 ザ・ライジング]

 白井の後ろ姿を見送りながら、池本は敗北を痛感した。これまで経験したことのない混乱した感情が襲いかかってきた。
 どれだけ策を弄してみても、あの二人の絆は断ち切れそうにない。真実の愛によって育まれた絆はかくも強く、想い合う二人を結びつける。それを思い知らされた池本は後ろによろめき、アウディのボンネットに手をついた。彼を振り向かせることができないならば、奴隷と姪を操って計画を実行する他ない。八景島で会ったあの奇天烈な姿をした男の声が耳許に甦る――あの男の運命の糸、そなたに委ねよう。そうか、それってそういうことだったのね。
 池本はアウディに乗りこんで、エンジンをスタートさせた。白井が立ち去った後をフロントガラス越しに見つめる目から、涙が滂沱とあふれてくる。それを拭おうともせず、彼女はただ冷たい声で呟いた。思い知らせてやる、と。
 思い知らせてやろう。白井正樹に、女の嫉妬と復讐心がどれほどのものか。深町希美と共に苦痛を味わうがいい。メメント・モリ。◆

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