第2481日目 〈『ザ・ライジング』第4章 1/46〉 [小説 ザ・ライジング]

 赤塚理恵は計画の変更を告げられた。上野共々保健室にやって来てすぐのことだった。何度訊いても叔母は首を横に振るばかりで、詳しいことはなに一つとして喋ろうとしなかった。ただ、「深町さんについては打ち合わせた通りよ。変更はないから安心なさい」というだけ。
 そうすると……白井という人についてなにか変更があったんだ、と赤塚は考えた。教育実習に来た男の顔を思い出そうとしてもできなかった。特に接触があったわけでないし、その時分は風邪をこじらせて学校を休んでいた記憶がある。思い出せ、といわれても、なかなか無茶な相談だ。
 白井のことはすべて私がやるから、あんた達はあの子を犯ることだけ考えなさい。そう池本玲子はいって、打ち合わせを締めくくった。
 叔母を横目で見やりながら赤塚は、相手が自分の手を血で染める覚悟なのを知った。顔からは表情が消えていた。それでいて瞳には邪悪で冷酷な意思が宿っている。殺人は容易だ。けれど、その後はいったいどうするつもりなのだろう。それに叔母さま、なんで深町さんを嬲るだけのために白井まで手に掛けようとするのかしら? 痴情のもつれ、っていう奴かな。叔母さまならあり得る、と赤塚は思った。警察に捕まるのなんて見越した上の計画だろう。だけど、私は絶対に捕まらない。理事長の孫という立場を存分に利用して、深町さんの一件はすべて上野先生にひっかぶさってもらう。心の中で笑いながら、彼女は上野と池本を交互に見た。
 保健室を出て階段を二階まで昇ったところで、赤塚は上野と別れた。「練習が終わったら最後の打ち合わせね。がんばろう、先生」といい残して。

 打ち合わせの内容は半分以上が右から左に素通りしていった。要するに部活が終わったら深町を呼び出して、犯っちまえばいいわけだ。たぶん、あの子は経験ないよ、と池本がいっている。なるほど、と上野は心の中で満足げな笑みを浮かべた。なるほど、初物を味わえる、ってことか。生娘を相手にするのは初めてだけど、さて、ちゃんと挿れられるのかな……。
 ――そこまで考えて、上野は呆然とした。いまのいままで、深町希美を歯牙に掛けるのは池本から解放されて、大河内との安楽な日々を取り戻すための手段だったはずだ。なのにこの瞬間、彼は少女との性交を楽しみにしている自分に気がついた。恋人とはまた違った感触を楽しめるのが、待ち遠しくてたまらない。それはいうなれば、生涯に幾度も口にできぬであろう珍味にも似ている。そうしてそれは、大河内との生活を取り戻してからはけっして味わえぬであろう征服欲を刺激させた。
 池本が淡々と計画の内容を確かめてゆく。二人にいっているというよりも、自分自身に確かめているような口調だった。大丈夫さ、俺は自分のやるべきことは承知している。よほどそういってやりたい衝動に駆られたが、こらえることが懸命だというのはいわずと知れたことだった。そんなことをいってみろ、と上野は口の中で呟いた。せっかくご親切に書いてくれた念書は無効になってしまうかもしれない。計画が終わるまで、じっと我慢していなくては。□

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